イギリスで「カツカレー」といえばチキンカツ
ところでイギリスでは日本式カツカレーといっても、ワガママの例でお分かりのようにその実態はポークでなくチキンカツである。
これは豚肉を食べないイスラム教徒が多く住んでいること、肉類の中でもヘルシーなイメージがある鶏肉がイギリスではダントツ人気であることなどが理由だと思われ、イギリスで「カツカレー」は「チキン・カツカレー」と同義なのだ。
2019年10月にインディペンデント紙がこちらの記事で「現在のイギリスで異国の味を取り入れた国民食のナンバーワンは、もはやチキンティッカ・マサラではなく、カツカレーだ」と宣言したことで、カツカレーのすさまじい人気ぶりが改めて国民的な共通認識となった(これを書いた記者本人のカツカレー愛もビシバシと伝わってくる)。
つまりイギリス人は、インド圏の味を現地化し、自らチキンティッカ・マサラを生み出したように、またしても他国のカレーを自国風にアレンジし、国民食に育てあげるという偉業を成し遂げたようなのである。
カツがなくても日本式なら「カツカレー」
日本のB級グルメへの知識がさほどないところへ、いきなりのカツカレー現象。きっと多くのイギリス人は「Katsuって何?」と思っていることだろう。しかし正しい「Katsu」の知識を得る機会もないまま漠然と日本式カレーとしてのKatsu Curryという用語が独り歩きし、今ではスーパーマーケットで売られているカツカレー関連商品の一部は、カツがなくても全てKatsu Curryとして一括りにされる傾向になってしまったようだ。
これに対して日本人や日本通から「カツ無しのカツカレーっておかしくない?」という声が上がりはじめたのも、比較的最近のこと。このヘンテコなカツカレー商品についてリポートするため、ハッシュタグ#KatsuCurryPoliceを使ってSNS投稿するカツカレーポリスたちが増えてトレンドになっている。
とはいえ日本でも、海外では通じない鼻つまみな和製英語はたくさん使われていることだろうし、ここは一つ、イギリスで横行するカツ無しのカツカレーくらい許してやってほしいというのが正直なところだ。
その昔、明治時代に日本が英国からカレーライスを輸入した際、インド本国では宗教上の理由でほとんどの人が食べない牛肉を入れて「ビーフカレー」として売り出し定着させてしまった罪も、カツ無しカツカレーを許容することで許されるのではないだろうか(インド圏でもイスラム教徒はビーフを食べるが、筆者が住むロンドンでビーフを使った料理を出すインド料理店は皆無に等しい)。
Katsu Curryは確実に日本式カレーを表す食品用語としてブランド化している。カツがあってもなくても「Katsu Curry=日本式カレー商品」と誰もが自動的に認識する穏やかな世の中になる日も、そう遠くはないはずだ。むしろ日本式カレーがインドやタイのカレーと並び、英国スーパーに参入するチャンスを与えられただけでも素晴らしいことではないだろうか。