80~90年代に外食のバラエティが広がった
英国スーパーの食品売り場は、各国フードのショーケースだ。エキゾチックな調味料や食材が普通のスーパーで簡単に手に入るだけでなく、調理済み食品にはパスタやカレー、点心はもちろん、スペイン風のタパス、ブラジルのファヒータ、韓国風のバーベキュー、ベトナムのフォー、日本のすしなどなんでもござれ。
街を歩けば同様に、さまざまな国の料理に出会える。マーケット屋台から始まる食の冒険がレストランへと昇華され、人気が出ればスーパーの食材や商品となって一般に広まり循環していく。これは間違いなく移民たちによる活発な食活動のたまものなのである。
半世紀前までイギリスで異国の味と言えば、インド料理、イタリア料理、中国料理くらいしか選択肢がなかった。タイやベトナム、南米、日本や韓国など外食産業に多くのバラエティが添えられるようになったのは、イギリスが移民政策を緩めていた80年代から90年代にかけて。それぞれがこの国で独自の発展を遂げてきた。
例えばタイ発のタイカレー。今では外食・持ち帰りチョイスの定番中の定番となっているが、フィナンシャル・タイムズの記事によると、タイ料理の認知度が上がりはじめたのは1990年代以降だという。パブの厨房でタイ料理を作って出すというビジネス・モデルが増加し、それまで以上にイギリス人がタイ料理に親しむようになったことで急速に定着していった。
ファストフード・チェーンでは衣なしのカツも
日本食はこれと同じような時期に浸透した歴史があるが、90年代の終わり頃はまだ「Sushi」と「Sashimi」の違いが分からないイギリス人も多かったと記憶している。それがワガママや回転ずしの「YO! Sushi」のおかげで、日本食の楽しさがこの20年の間に徐々に定着してきた。現在のカツカレーやラーメンの浸透も、もとを正せばルーツはそこにある。
カツカレー人気が継続している理由? それはおそらく「揚げ物+ライス+カレーソース」のユニバーサルな魅力に加えて、基本さえ守ればいかなるアレンジも可能であることも挙げられると思う。
デイリーメールの記事によると、今年の秋はファストフード・チェーンのプレタ・マンジェでチキンカツのバゲット・サンドイッチが発売となるらしい。しかしこれは衣なしの「Naked」シリーズ。イギリスではカロリーオフのために揚げ物から衣を取った料理に「Naked」と付けて区別するのだ。
揚げないカツに、カツ無しのカツカレー。カツカレーは故郷を離れ、進化する。もう誰にも止められない。