菅首相の言葉への違和感の正体
記者会見は首相官邸の記者会見場で開かれた。会見時間は約1時間。まず冒頭の約15分間、菅首相が用意された原稿を読み上げる形で、施策の発表と現状の分析、そして今後の見通しについてスピーチ。次に記者からの質疑となる。(参考:新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見)
この質疑応答で、国民の気持ちを代弁するような、分かりやすい質問をビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏が行った。質問の要旨は単純明快。「菅政権のコロナ対策は本当にうまくいっていると思っているのか。その根拠は何か。問題があるなら何か」である。
これに対する菅首相の回答の要旨は以下である。
・自分は毎日コロナ対策をやってきた。コロナのワクチン接種に全力で取り組んできた。
・ワクチンについては海外と制度が異なり、日本は制度上、どうしても遅れる仕組みになっている。しかし、これからワクチンは欧米並みに接種が進んでいく。
・自分自身、このワクチン接種には全力で取り組んできて、そこは良かった。引き続き、全力で取り組んでいきたい。
・コロナ対策をしっかり進めて、1日も早い、かつての日常を取り戻すことができるように全力でやっていきたい
冷静に読み解けば分かるが、菅首相は質問に見事に答えていない。神保氏の関心は、ワクチン施策の評価だけではない。政府のコロナ対策全般が機能していないのではないかという疑問と、感染者数に歯止めがかからず、死者も出ている点で対応に問題はないのかを問うている。その現状認識の上で政府のコロナ対策は本当に結果を出せているのかを聞いている。
神保氏は、別にワクチンの進捗がうまくいったかどうかを聞いているわけではない。
菅首相や政府が全力でやったのかを聞いているわけでもないのだ。
かみ合わない質疑応答
以上を整理すると「あなたは本当に結果を出せていると思っているのか」という結果を問う質問に対して、「全力でやってきた」と頑張り度合いを答えている。「コロナ対策についての全体評価」を聞かれ「ワクチン政策の進捗の評価」に替えて答えているのだ。
もう一つ、時系列で分かりやすい例があるのでご紹介したい。8月25日の質疑で最初に質問をした北海道新聞の記者であるが、彼の質問の要旨と菅首相の答弁を対応すると図表1のとおりになる。
一見すると先ほどよりはマシのようだが、整理すると質問には答えていないことが分かる。「ワクチンに偏っているのではないか」というワクチン偏重の指摘に対して「ワクチンを含む3つの柱でやっていく」と答えているのはその典型だ。
また、「出口はいつなのか」という「when」を尋ねているのに対して「出口戦略については、対策を徹底し、ワクチン接種を推進する」と「how」を答えている。