なぜ菅義偉首相は1年で退任することになったのか。元外務省職員の前田雄大さんは「菅首相には、質問に答えない、言葉が響かないという批判が付きまとい支持を失った。官房長官時代と変わらない言葉遣いや会見スタイルが裏目になった」という――。
記者会見する菅義偉首相
写真=時事通信フォト
記者会見する菅義偉首相=2021年9月9日、首相官邸

なぜ菅首相が退任に追い込まれたのか

菅義偉首相が自民党総裁選への立候補を断念し、9月末の総裁任期満了に伴って首相を退任することになった。7年8カ月に及んだ安倍政権を支え、昨秋の総裁選で圧倒的な得票で党総裁に選ばれながら、なぜ1年でトップの座を明け渡すことになったのだろうか。

新聞やテレビ報道では、派閥の動向に着目した政局から解説がなされることが多いが、筆者は、菅首相のある“言葉遣い”に決定的な原因があると考えている。

緊急事態宣言の発出や延長に際し、菅首相は繰り返し記者会見に臨んだ。そのたびに向けられたのが「聞かれたことに答えていない」「言葉が響かない」という批判の声だった。

月刊誌『文藝春秋』10月号によれば、菅首相は同誌の単独インタビューでこうした批判を受け止めつつ、「どうしたら国民に言葉が届くのか、もう一度一からやり直さないといけないと感じています」と述べている。菅首相は自身の欠点を認識していたものの、最後まで“言葉遣い”を修正できなかった。

筆者は外務省の官僚時代、首相や大臣の国会答弁、プレス対応用の応答要領などをこの手で書き、また同僚が書いたものをチェックし、決裁をしてきた。その経験から、菅首相がなぜ評判が芳しくない言葉遣い、記者会見のスタイルを続けたのかを読み解きたい。

実際に首相会見では、記者の質問に正面から回答することはほとんどなかった。具体的に会見内容を見ていくとその傾向がよく分かる。8月25日の首相会見を例にとりたい。