父親との仲が険悪に

2016年12月、49歳になった和栗さんは、同居する父親にイライラしすぎてしまうことを気にして自身の更年期障害を疑い、市販の薬を飲み始めた。

父親に対するイライラは、そのまま5歳上の長女、4歳上の次女(いずれも結婚し独立)にLINEで愚痴として流していたため、ある日、同じマンションに住む長女から「話をしましょう」と提案される。

長女の家へ行くと、「昔が立派で自慢できる父親だったから、できなくなってるのを認められないっていうか、『なんでできない?』ってイライラするのよね、きっと。それと、あなた最近、自営で介護タクシー始めて、家にいる時間も増えたから、余計に目につくのかもね」と長女。

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和栗さんは2016年、一人で介護タクシー会社を立ち上げたのだ。

「だから家にいる時間を減らそうと思って、空き時間にアルバイトも始めたんだよ。でも帰ってくるとイライラするの。施設に入れたい!」と和栗さんが言うと、長女は「でも、ここはお父さんの家だし、ここにいたいと思ってる。みんなには言わないけどね」と返した。

この日の話は、父親が家にいない時間を増やすために、できるだけ長女と次女が休日に連れ出し長時間出かけるようにする、ということで終了した。

「私は不満でした。三姉妹なんだから、父の世話も3分の1ずつではないのか。そうでないなら、施設に入れてしまいたい。ずっとそう思っていました」

和栗さんは、「来年こそはこの家を出ていこう」と固く決意した。

83歳の父親は、認知症外来で検査を受けたが、結果は「年相応の物忘れ」だった。

2018年、和栗さんは、父親に毎日家にいられて嫌だったため、つい感情的になって「ボケてるからデイサービスに行け!」とせっつき、父親に介護認定を受けさせたところ、結果は要介護1。それでも父親はデイサービスを嫌がった。

2019年2月、胆のう摘出後から続けている通院後、自宅近くの薬局まで父親を車に乗せて行く際に、思い詰めたように「施設に入りたくない」と言い始める父親。運転する和栗さんは、思わず声を荒げてストレートに言ってしまった。

「入らないってことは、私がこの先もずっと面倒をみなきゃならないってことだよね? 嫌なんですけど! あんたの後始末ばかりの毎日でこのまま年取っていくの、うんざりなんですよ! おんなじ事何回も言うのも、大声で話すのも、嫌なんですけど!」

「じゃあどうしたらいい?」と父親が言うと、「施設に入ってくださいよ!」と和栗さんは絶叫。和栗さんは、精神的に限界に来ていた。

毎日、父親のできなくなっていくさまを目の当たりにするたびにイライラして、「老人ホーム行け!」などと罵倒する。父親も負けてはおらず、大声で「もう俺は死んでもいいんだな?」と開き直るようにすごんでくるので、「じゃあ死ねば?」と言い返す。そんな殺伐として日々が流れていった。

「父は背が160cmしかなく、体は私のほうが大きいので、怖いと思ったことはありません。お互い口だけ。後は家の建具に当たるくらいで、暴力は振るっていません。ケガなどしたら自分の負担が増えるだけですから」

そんな状況を姉たちは心配し、同じ月に、家族会議を設け、次女が「父をサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入れたらどうか?」と提案。

すると、長女は「あと4年で私が定年退職なので、退職後なら同居してもいいよ」と。それを聞いた和栗さんは、「なら、それまでは我慢して同居する」と言った。そのときは、頑張れると思ったのだ。