働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」は、支援制度を利用していないと介護離職に追い込まれやすい。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「1人で抱え込むといずれ経済的に困窮し、負のループに陥る。支援制度をうまく使いながら、家族間の役割を決めることが重要だ」という――。
背を向けて立つ男女のシルエット
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静かに辞めていくビジネスケアラーたち

少子高齢社会で労働力不足が危惧される中、介護や看護のための離職者が、過去1年間で約11万人に上っています(※1)。働きながら親の介護をするビジネスケアラー(※2)の存在が可視化されるようになり、仕事と介護の両立支援の取り組みは進みつつありますが、なかなか利用にまで至っていないというのが現実です。

雇用されて働いている人に絞ってデータを確認してみると、介護を担う人は年齢とともに増えていきますが、ピークは55歳から59歳で、男性が約30万人、女性が約40万人です(図表1)。

【図表1】介護をしている雇用者数
総務省「令和4年就業構造基本調査」より(筆者作成)

そのうち、介護休業等の制度を利用した人は、どの年代においても圧倒的な少数派です(図表2)。しかし、制度を利用することなく、現役世代が介護離職しているとすれば、離職者は遅かれ早かれ経済的困難を引き起こし、老後の低年金につながるといった、まさにドミノ倒し状態に陥ってしまいます。

【図表2】介護をしている雇用者のうち介護休業等利用者数
総務省「令和4年就業構造基本調査」より(筆者作成)

※1 令和4年就業構造基本調査より
※2 酒井穣『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』ディスカヴァー携書

夫婦それぞれ実母の介護をすることに

Aさん(56歳)は、2人の子が独立した後、パート勤務の妻と2人暮らし。妻は姉と分担して母親(父親は死亡)の介護をするため、1カ月の半分は実家に通う生活です。

そんなある日、1人暮らしをしているAさんの母親が、入院をしたとの連絡が入りました。幸い大事には至りませんでしたが、退院後の日常生活にはだれかのサポートが必要な状況です。病院では介護保険を使うことを勧められましたが、母親が「まだ自分でやれる」「他人を家に入れたくない」と言い張るので、Aさんが仕事帰りに買い物をして実家に寄り、家事や母親の世話をしてから帰宅する生活が始まりました。