日本人に刻まれた「老後2000万円問題」
2019年に世間を騒がせた「老後2000万円問題」は、今なお人々の意識に大きな影響を残しているようです。2021年3月、25歳から64歳までの男女を対象に行った調査(※1)によると、「老後までに準備する必要があると考える金額」について、有配偶者か独身かを問わず、ほぼすべての年齢層で中央値(※2)が2000万円という結果でした。
また、すべての年齢層で「2000万円以上3000万円未満」と回答した人の割合が最も高く、ちょうど2000万円と回答した人は、有配偶者全体の約28%、独身者全体の約27%となっていました。
このことからも、「老後資金といえば2000万円」がもはや常識のようになっていることがうかがえます。ここで改めて、「老後2000万円問題」を振り返ってみたいと思います。
※1 ニッセイ基礎研究所『基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.300]』「老後資金準備の実態-老後までに準備が必要と考える金額、老後のための貯蓄や投資に1年間で拠出する必要があると考える金額と、実際の拠出額」
※2 データを小さい順に並べたときにちょうど真ん中に来る値
無職の夫婦は「毎月5万円の赤字」
事の始まりは、2019年6月3日に公表された報告書「高齢社会における資産形成・管理」(※3)です。この中に「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になる」との記載がありました。
この文章の直後には、「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」とあるのですが、「老後資金2000万円」の部分だけが独り歩きするようになりました。
※3 内閣総理大臣および金融庁長官等の諮問機関である金融審議会「市場ワーキング・グループ」が議論の内容をまとめたもの