1人にケアを集中させず、当事者で分担を

介護休業等の制度を使って、親を中心として兄弟姉妹など、関係者間でしっかり意見のすり合わせをしてください。親の介護を、直接ケアをする人だけの問題にするのではなく、情報を共有し、程度の差はありながらも、それぞれが当事者意識を持って可能な範囲で役割を担っていく態勢を整えることが重要です。最初の段階でこれができるかどうかによって今後の方向性が決まるといっても過言ではありません。

続いて、介護保険で受けられるサービスの種類や利用のための手順を見ていきます。

心に留めておきたいことは、介護サービスは利用する人の「望む暮らしを実現する」ためのツールの1つであるということです。親自身がどのような暮らしを望んでいるのか、それを実現するためにはどのようなサービスを利用すればよいのかという観点で検討することが大切です。前述した関係者間での話し合いは、このような「親を中心に」という前提のもとに行うことを忘れないようにしたいものです。

そして、介護の必要度は加齢とともに高まっていきます。子にとってはつらいことですが、そのことを受け止める覚悟も必要です。当初は家族のだれかがケアを担うことで日常生活が回っていくとしても、いずれ手に負えなくなっていきます。1人にケアが集中する態勢ができあがってしまうと、「もう少しがんばれる」「迷惑はかけられない」など、なかなかSOSを発信できなかったり、周囲の理解が得られず孤立したりする危険性があります。

専門職に頼んだほうが親も子も楽になる

一方、頼れる兄弟姉妹がいないため、「自分ががんばらないと」とか「私しかいない」と思い込むのもNGです。身内は自分しかいなくても、隣近所でほんの少し手を貸してくれる人や、ホームヘルパー、理学療法士などの専門職も大事な戦力です。家族力や経済力など、個々の事情に合わせて、持てるリソースを洗い出し、プロの情報力や知見を上手に活用しながら、親の暮らしをサポートするチーム作りに取り組みましょう。

車椅子の女性に寄り添う介護施設の職員
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです

Aさんの事例のように、家族以外の人にケアされることを嫌がる親や、他人に任せてしまうことに罪悪感を持つ子もいますが、訓練された専門職にケアされるほうが、親自身も楽なはずです。

たとえば、介護保険で利用できる生活援助は、単なる家事支援ではなく、利用者の残された力を見極めて、やれるところはサポートしながら本人にやってもらいつつ、同時に、部屋の中の動線を確認して転びそうなところをチェックするなどの目配りを行っています。このようなプロの力を借りることによって、気持ちに余裕が生まれ、親との時間を大切に過ごすことができれば、親も子も笑顔でいられる時間が増えそうです。