女医の態度に変なスイッチが入りかけた

数カ月後、主治医の先生が留学して、担当が変わって女性医師になりました。

3カ月に1度、定期検診があるんですが、その先生がクラスに一人はいた理系女子そのままの見た目と話し方でね。おそらく日本の医学を革新するために必要な、データソースである私に、すごくぞんざいなタメ語で話してくるんですよ。もちろん私の生活が問題だらけだからなんですが。

「君、ぜんぜん数値がよくなってないじゃない」

ちょっとドライな言い方は、「痛風ごときで、私の手をわずらわせないで」という態度にしか私には見えなくて、自分の中の新たな扉が開きそうになってしまうのを感じました。

それまでの担当医は、私という、一人ビッグデータを手に入れたので、手塩にかけて育てたいという思いがあったのではないかと思うんです。だから、きつくあたられることはなかった。私が逃げ出さないように腐心していたのかもしれません。

でも、その女医さんは、きっと自分の研究とは関係ないわけですから、あまりにも自堕落な数値をみて「なにこれ」と怒るわけです。

人間は50年も生きると、誰かに怒られることはほとんどなくなるんですね。宴席なんかでは「よっ、監督っ!」なんてちやほやされることも多い。それが説教をされ頭を下げるような目にあうわけですよ。

最初は衝撃ですよ、もう。

でも少し時間が経つと、じわじわくると。そしてまた厳しい言葉で殴って欲しくなる。

キンマサタカと全日本痛風連盟編『痛風の朝』(本の雑誌社)

定期検診の3カ月が待ち遠しくてね。「もっと数値を悪くしたら怒られるかな」なんて思いながらも、やっぱり褒められたいから食事に気をつける。改善された数値を見た先生は、「やればできるじゃない」って。怒られるのもいいけど、褒められるのもいいななんて思うわけです。

そして、何度か診察を受けるうち、「仕事は忙しいんですか?」ってきかれまして「実はこれこれこういう仕事をしてて」といったら。「あの映画もそうでしたよね」と作品名をつらつらと並べて、しかもみんなが知っているわけでもないタイトルも入ってたりして、なんだ、俺のこと知ってたのかって! 彼女は私の作品は全部見てるようなありがたい、結構な位の高いお客様だったんです。

そこで私ははたと気づくんですね。

私に対する「君」という呼称は、別に理系でもドSでもなくて、いわゆる「こっち側」の喋り方だったんだと。それを知ってますますキュンとするじゃないですか!

痛風がくれた出会いに感謝ですね。ときめきと健康をありがとう。

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