映画の世界は酒飲みには最高の職場
昔からお酒が好きでした。うちは酒を飲まない両親だったけど、私だけは好きでしたね。学校を出て映画の世界に入ったけど、ここがまた酒飲みには最高の職場でした。
僕が仕事をしていた東宝というスタジオは、当時は組合がとってもうるさいころで、おかげで労働環境はよかったと思います。
でも、組合が社員に残業をさせないとどうなるかというと、早く仕事が終わったチームから、「反省会」と称した飲み会が始まるだけで、工場みたいな詰所では、毎晩どこかで酒盛りをやってました。
酒を飲みながらするのは、やはり映画の話が多いのかな。最近流行っている映画の話をしますね。最近の話題は、配信ものすごいよねってことばかり。つい最近も韓国の『スペース・スウィーパーズ』というSFがすごかったという話で盛り上がりました。
昔は「これってどうやって撮ってるんだろうね」とか、制作の視点に立った話題が多かった。でも、昨今の特撮は、結論からいえばCGにどれくらい時間と金がかけられるかによるわけで、どう撮ってるかなんて自分たちの仕事のヒントにならないから、わかっても仕方ない。結局は金と時間をかければできる話なので。虚しいものです。
しかし、最近の映像配信系サイトのサムネイルは本当に伝わってこない。あれって実はAIが決めているらしいんですけど、どうしてこの写真を使うの? というのを選ぶ。あのAIはクビにしたほうがいいと思うなあ……。
昔から映画というのは、どうやったら映画館に足を運んでいただけるか、ポスター作りに気合いを入れたわけです。公開が終わりツタヤなどのレンタル店に置かれる時は、どうやってインパクトのあるパッケージを作って面出しされるかにかけていた。
レンタルになる時はビジュアルが変わる場合も多くあって、映画の時よりもわかりやすい見た目にして、視聴者のハードルを下げる努力もしてきました。映画からレンタルになるときに映画タイトルが変わることもよくありました。
それくらい気合を入れてきたのに、なんだあの鑑賞意欲をそそらないサムネイルはってね。痛風と全然関係ないですけど。
とにかく動き回っているのに尿酸値が高い
制作期間は約2年、「シン・ウルトラマン」の撮影はようやく終わりました。今は編集作業の真っ最中。(編集部注:2021年5月27日に取材)
映画の撮影というのは、前日に翌日のスケジュールが出ます。僕は現場にだいたい1時間前に入って、「どれからやろうか」って相談をしていると、だんだん人が集まってきます。
監督の仕事は、まず決められたスケジュールを粛々と進めること。良い物をつくるのは当たり前なので。
昔はもうすこし「ここどうしようか」とか「ここうまくいくかな」ってそういう試行錯誤があったけど、最近はそういうのはほとんどないですね。
実質、管理職的な役割に近いのかな。とにかくいっぱい素材を撮ることだけを考えて。
現場ではプレッシャーをずっと感じています。一番怖いのは、撮りこぼすこと。屋外ロケで午後から天気がくずれるという予報の時は、とにかく焦ります。
映画のスタッフというのは、狩猟民族に近くて、とにかく撮りまくる傾向にある。たくさん撮って、撮りまくって、最終的に消化できなくてもまあ仕方ないかと思えるけど、素材が足りないと編集の段階でどうにもならなくなってしまう。
大事なのは、食べる(使う)かどうかわからないけど、どれだけ獲れる(撮れる)かどうか。不安を解消するためにとにかく撮るんです。
昔の監督はディレクターズチェアにすわって、パイプをくわえて鷹揚に構える、みたいなイメージがあったけど、僕は現場ではとにかく動き回ってます。なのに尿酸値が高いんですよ?