国際会議で起きた“思わぬハプニング”

さらに中国は政府機関と民間企業が協力して、海外からヘンプの専門家や企業関係者、投資家などを招き、国際会議を実施している。

矢部武『世界大麻経済戦争』(集英社新書)

米国の大麻専門家クリス・コンラッド氏は2019年7月、中国・黒龍江省の省都ハルビンで開催された「中国産業用ヘンプ国際フォーラム(CIHIF=China International Hemp Industry Forum)」に講演者として参加した。

このフォーラムには中国内のヘンプ生産者や加工業者に加え、米国、カナダ、欧州などからヘンプの研究者、企業関係者、投資家など数百人が集まり、ヘンプ産業の現状や研究開発、政策、投資や市場の展望、CBD製品の規制などについての議論が行われた。

中国がこの種の国際会議を行う背景には、海外の専門家と情報交換を行うことで国内のヘンプ産業の生産・加工技術の向上、外国の企業や研究機関との協力体制の構築、投資機会の促進などを図る狙いがあると思われるが、この時は思わぬハプニングがあったという。

コンラッド氏は米国の大麻規制の歴史や合法大麻市場の現状などについて講演したが、そのなかで、精神活性作用のある大麻成分THCについて、「医療効果を考えれば、CBDに劣らず大きなメリットがあるTHCを廃棄してしまうのはもったいない」という趣旨の発言をすると、中国人の通訳が勝手にその部分を訳さずに伝えたそうだ。

中国が精神活性作用のある大麻成分に対して神経質になっていることは先述したが、コンラッド氏はそれを改めて認識させられることになった。

しかしそれでもコンラッド氏は、「中国がヘンプ産業の推進をこれだけ一生懸命やっているところをみると、医療用や嗜好用の大麻についても大きな経済的メリットをもたらすと判断すれば、方針を変える可能性はあるのではないか」と話した。

すでに医療大麻関連も含めた特許を取得している

これまでのところ中国は産業用大麻の推進にとどまっているが、将来的に医療用や嗜好用の分野に進出する可能性はあるのだろうか。

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前出のクリス・コンラッド氏を含め、その可能性を指摘する大麻専門家やメディア報道は少なくない。その根拠のひとつとなっているのが、中国が取得している大麻関連の特許件数の多さである。

2019年に米国の「リサーチアンドマーケッツ」が発行した「中国の大麻市場概況(Chinese Cannabis Market Overview)」によれば、国連の専門機関である世界知的所有権機関(WIPO)に登録された大麻関連の特許件数は世界で計606件にのぼり、そのうち306件は中国の企業もしくは個人によるものだという。

これらの特許には、ヘンプの栽培方法や品種改良、製品加工技術などに関するものから医療用大麻関連までさまざまなものが含まれる。たとえば、大麻草の成分と種子を原料とした免役力を高める機能性食品や、桔梗などの薬草と大麻の成分を混ぜて作られる便秘治療薬などもあるという。