公式な統計は存在しないが、中国は産業用大麻の生産で世界一だとみられている。ジャーナリストの矢部武さんは「中国政府は歴史的に一度も産業用大麻の栽培を禁止したことがない。トウモロコシの3~4倍の収入が見込めるとあって、多くの農家が生産に乗り出している」という――。(第2回)

※本稿は、矢部武『世界大麻経済戦争』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

中国の国旗の上に大麻
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3000年以上も前から産業用大麻を栽培していた中国

米国とカナダの合法大麻市場に対抗するのは、産業用大麻「ヘンプ」の世界最大の生産国である中国と、医療用大麻の研究で世界をリードするイスラエルである。

中国は、嗜好用と医療用の大麻(マリファナ)を厳しく禁止しているが、産業用大麻を合法化し、ヘンプ製品の生産・加工技術などで世界のトップレベルを誇る。

また、1960年代に世界で初めて精神活性作用のある大麻成分のTHC(テトラヒドロカンナビノール)と、抗炎症・鎮痛作用などがあるCBD(カンナビジオール)を発見した科学者を擁するイスラエルは、国を挙げて医療用大麻の研究とビジネスを推進している。

中国では4000年以上前から大麻が治療目的で使われているが、実は産業用のヘンプも数千年前から栽培され、繊維や紙などに使われていたことがわかっている。いまから3400年ほど前に作られた河北省の殷王朝の墓には、ヘンプの繊維が使われていたそうだ。

マリファナ禁止の背景にあるアヘン戦争というトラウマ

近代となり、中国政府は産業用大麻(ヘンプ)の栽培・使用は認めたが、医療用と嗜好用の大麻(マリファナ)を禁止している。中国政府がマリファナを禁止しているのは、アヘン戦争によるトラウマが残っているからではないかと言われている。

これはアヘンの密貿易をめぐって、中国とイギリスとの間で1840年から2年間行われた戦争で、イギリスの商人が持ち込んだアヘンが中国内で蔓延して深刻な社会問題となり、当時の清皇帝がアヘンの全面禁輸を断行し、それを没収・焼却したことで起きたが、清は惨敗した。

その結果、清は1842年にイギリスへの多額の賠償金や香港島の割譲など屈辱的な不平等条約(南京条約)を締結させられることになった。

アヘン戦争はその後の中国の凋落を決定づけることになったとも言われており、中国にとってアヘンという麻薬は屈辱の象徴となった。その影響もあってか、いまの中国政府は精神活性作用のあるマリファナに対する警戒感が相当強いようだ。

だからこそ産業用のヘンプのみを許可して、嗜好用と医療用のマリファナを禁止しているのであろう。