会話の鉄則は、相手にしゃべらせることです。自分がしゃべれば自分はいい気持ちになるかもしれませんが、重要なのは、自分がいい気持ちになることではなく、相手にいい印象をもってもらうことです。第一、自分がどんな意見をもっているかなど他人にはどうでもいいことです。それにどうせ相手に伝えなければならないほど重大なことは考えていないはずです。

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組織内コミュニケーションを進める上でのネック

電車の中で運命を左右するような重大な話が出ることはありません。それがわかれば簡単に妥協できるようになります。どんな話題でも対立は生じる可能性がありますが、妥協で防げます。以前、わたしが妻に「今日は寒いね」と言ったとき、「寒くない」と言われ、「そうか、じゃあ僕の体調がおかしいんだ」と妥協しました。寒いかどうかはどっちでもいいことです。まして自分がどう思っているかなど取るに足りません。そんなことで対立を招くのは愚かです。

会話をするのが難しく思える原因の一つは、「心をこめて話さなくてはならない」と思い込んでいることにあります。われわれは教育のせいか、自分の気持ちに正直に発言しなくてはいけないと思い、心にもないことを言うと罪悪感をおぼえる傾向があります。しかしふだん、「おはよう」「ごちそうさま」「結婚おめでとう」「またいつか」など、心をこめることなく言っているのです。自分の誠実さにこだわるのは、ある意味で利己的です。他人の気持ちより自分の誠実さのほうを優先させているからです。私心を捨て、相手の気持ちを第一に考えて話せるよう練習すべきです。奥さんに「きれいだね」と抵抗なく言えるようになればしめたものです。そうなれば、相手の気持ちを思いやることができるようになり、結果的にあなたの好感度が上がるはずです。

苦手な相手とどう会話するかは実は深い問題です。根本的には、何を話すかといった技術の問題ではなく、人間性の問題です。自分を客観視でき、何が重要かを判断できる人間になることです。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=岡本 凛)