「バレ元スキーム」という手口
だが、徳井氏が会見で「15年3月期までは毎年きちんと税務申告していた。意図的に申告しなかったわけではない」との趣旨の発言をしたため、「過去の無申告を隠して嘘をついた」と指弾され、活動自粛に追い込まれた。国税OB税理士が解説する。
「申告内容に悪質な仮装・隠蔽が見つかれば7年間遡って調査できますが、単純無申告は5年分しか遡れません。仮装・隠蔽に対する重加算税が最大45%なのに対して、無申告加算税は最大でも30%にとどまります。
また、ペナルティとして追徴税額に加算される延滞税も、重加算税が課せられなければ格段に少なくて済む。そこで『税務署にバレてもともと、バレたら支払えばいい』と考えて、最初から全く申告しない『バレ元スキーム』という手口が存在します。徳井氏の場合も一見すると、このスキームに該当するように思えます」
だが、このOB税理士によると、国税当局が今回の徳井氏の無申告をバレ元スキームと見做してマルサの刑事告発に繋げるには、いくつかのハードルが存在するという。東京国税局査察部が徳井氏を強制調査することはなかったが、その背景は後述するとして、00年以降の芸能界絡みの脱税事件を簡単に振り返ろう。
タレントを搾取し3億円以上を脱税したアイドル事務所
私がテレビ朝日社会部時代に取材した事案では、00年代前半にグラビアアイドルの眞鍋かをりと小倉優子を大ブレイクさせた「アバンギャルド」(現・アヴィラ、東京都品川区)や、有名AV女優が多数所属した「ミューズコミュニケーション」(東京都目黒区)、さらには創業社長が所属芸人に支払うギャラの帳簿を手書きで作成していた「人力舎」(東京都新宿区)などが印象深い。
アバンギャルドは実体のないグループ会社2社(うち1社の社名は「ア“ヴァ”ンギャルド」、傍点は筆者)を含めた3社間で「撮影協力費」名目の架空経費を付け回し、06年12月期までの3期で約11億6000万円の所得を隠し、約3億4500万円を脱税。
隠した所得をテレビ局や広告代理店の担当者の接待や、社長個人の不動産購入などに充てる一方、所属タレントのギャラは「現代の蟹工船」と言われるほどの低レベルだった。
09年8月に逮捕・起訴された社長は翌年、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
ミューズ社は07年3月期までの3期で約3億1500万円の所得を隠し、約9200万円を脱税。社長は09年10月に逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
同社は関係会社の口座に振り込ませた所属タレントの出演料を引き出したあと、別の関係会社の口座に移し替えたり、実体のない十数社に架空経費を計上したりして所得を隠蔽。関係会社の口座から引き出した現金の支払先を装うため、架空の借用書や領収書を大量に作成していた。
隠した所得は社長個人の自宅予定地や高級外車の購入に充てられていた。