アオウミガメの肉を焼いて煮ると牛肉よりうまい

やがて炊事班が大急ぎで作った、島で最初の「めし」が用意された。島には正覚坊(アオウミガメ)が沢山いた。甲羅の大きさが直径1メートルもある。それを焼いた肉と海水で煮た潮煮は牛肉よりもうまかった。空腹の極みにきていたのでみんなむさぼり食った。

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翌日の食事が終わったあと航海士が「みんなの知っているとおりコメは2俵しかない。これをできるだけ長くもたせるために次のめしから重湯にして1日に3度飲むことにして、あとは魚やカメの肉で腹を作ってほしい」

そう言い、全員がうなずいた。

そしてその日から全員服を脱いでそれはなにかのときのためにちゃんとほして乾燥させ、大切に保管し、ずっとハダカで生活することにきまった。

またもや全員がうなずいた。

さらに翌日から蒸留水を作ることをやめた。考えた以上に沢山の燃料がいることがわかったからだった。そのかわりしばしば降ってくる雨(スコール)を天幕でうけとめ、1カ所にあつめて石油缶に保存し、井戸水にまぜて飲むようにした。

火もマッチに頼っていたのでは直に使い切って悲惨なことになる。そこで晴れている日は双眼鏡の凸レンズを使って太陽光線から火を作るようになった。けれどこれも晴れていないと役にはたたない。そこで空き缶の中に砂をいれ、そこにアオウミガメから採った油をつぎこんで、油のしみこんだ砂の上に灯心を差し込み、火をつけると立派な行灯になった。風に消されないように缶詰をいれてあった木箱でまわりに枠をつくり帆布の幕を垂らすと自由に持ち運べる万年灯になった。

アザラシの群れには手を出さないルール

初日に捕まえたアオウミガメがなくなると魚釣りに集中した。16人のなかには釣り名人がたくさんいた。ヒラガツオ、シイラ、カメアジなどがいくらでも釣れた。魚は刺し身にするのが手間も燃料もいらないからいちばんありがたく、焼き魚、潮煮やシャベルの上でカメの油で炒めたものなどを食べた。

島の北側から砂浜続きに小さな出島のようになっているところがあった。その出島をねじろにしているのは大小のアザラシだった。アザラシは魚とりの名人だ。魚をとるときはみんなで潜って沢山食べ、満腹すると半島のあちらこちらに上がってきて日にあたってのんびりしている。全部で30匹ほどいたがやがて仲よくなっていった。

その群れを見て船長は、

「あのアザラシには当面なにもしないようにしよう」

と言った。人間たちが食べるつもりでかれらを襲えば最初のうちは何頭か捕獲することはできる。でもそれによってアザラシが用心、および敵対してみんなどこかに行ってしまうのではまずい。彼らは人間に何もしないのだし、我々も何もしない。でももし我々がまったく何も食べるものがなくなって飢え死にしそうになったとき、彼らを食べてしばらく生き延びることができるかもしれない。

だから、たとえ捕まえるわけではないにしてもあのアザラシ半島に無闇に入り込んでいくのはやめよう。

船長はそういうことを決まりごとのひとつにした。