1899年、漁業調査をしていた日本の帆船が座礁し、16人の乗組員が太平洋の無人島に漂着した。彼らは十分な食糧をもっていなかったが、島にやってくるある生き物のおかげで「贅沢」とも言える食生活をおくったという。作家の椎名誠さんが解説する――。(第2回)

※本稿は、椎名誠『漂流者は何を食べていたか』(新潮選書)の一部を再編集したものです。

チューク州にある無人島リゾート「ジープ島」
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門外不出の『無人島に生きる十六人』

漂流記にはカテゴリーがいくつかある。江戸時代の千石船の漂流などは、当時の日本の鎖国政策が背後に冷酷に関与していて、遭難漂流の原因は類型化している。

もっとも恐ろしく世界にも例のない漂流は意外なことに日本でおきたもので『流れる海 ドキュメント・生還者』(小出康太郎著、佼成出版社)だろう。これは30年ほど前、モリ突きのダイバーがアクシデントで3日間流されてしまう、という残酷きわまりない漂流体験だ。ぼくもダイビングをやるので、その恐ろしさは具体的に想像できる。

そういういろいろな漂流記を捜しもとめていた頃、むかしの資料に垂涎すいぜんもののタイトルを見つけることがあった。古文書などは持っているものが多かったが1冊、古い広告チラシで古色蒼然こしょくそうぜんとした装丁のボロボロの本の写真が目にとまった。

無人島に生きる十六人』(須川邦彦著)である。四六判ハードカバー。内容紹介や帯などはないからそれがどういう本なのかそれ以上くわしくはわからなかった。タイトルからして『十五少年漂流記』に似ている。子供向けのボーケンものか。講談社の本だった。古い本とはいえ一流出版社から出たものだ。

仕事がら講談社にはあちこちの部署に知り合いがいる。さっそく問い合わせてみた。3~4日ほど時間がかかったが様子がわかり予想したとおり、もう絶版であるという。

「おたくの図書館にもないのですか」

素直な編集者ですぐに調べてくれた。

「図書館にもなくて資料室にたった1冊ありました」

おお。よくぞそこまで調べてくれた。

「ただしですねえ。この本は当社にも1冊しかないそうで、門外不出扱いになっているんです」

漂流記フリークとしては、こういう門外不出というのは殺し文句に等しい。ぼくはその編集者にネコナデ声で、そんなに急がなくてもいいからそれ全編コピーして貰えないだろうか、と頼んだ。本心は「今すぐコピーしてそのまま送ってくれえ!」だった。

「あっ、それなら簡単ですよ」

いい奴なのだった。こいつとはこれからもっといい仕事をしよう。

手に入ったその日のうちに読んでしまった。最初に疑ったのを詫びるほどに実にまったく面白い。面白すぎて日本の明治時代にジュール・ヴェルヌみたいな人がいてその人が書いたのではないかとさえ思った。

題名のように16人のおじさんや青年の乗った船が太平洋のまっただなかの無人島に漂着し、そこで苦労してサバイバル生活をおくる話だ。