スシローは接客を褒められたことがなかった

【寿司リーマン】スシローが目指している「うまい」へのスタンスは、接客にも表れていますよね。

【堀江社長】例えばマクドナルドさんはよく「接客が良い」と言われていますよね。一方、ウチは「すしがうまくて安いよね」とよく言っていただいていますが「接客が素晴らしいよね」とは一回も言われたことがない。「接客が良いからスシローに行こう」と思われていないんです。

私が社長になって、「すし屋の基本」という品質基準を作り、全国の店舗を巡回していました。その時に、普通じゃ考えられないようなパフォーマンスをしている店舗があったんです。

【寿司リーマン】どんな店舗だったんですか?

写真提供=スシロー
店内の活気付けに、店舗オリジナルの店内放送を流すスタッフ。

【堀江社長】夏の時期だったのですが、まず入店すると、天井に浮輪がぶら下がっているんです。驚いたのは、企業秘密である「スシローのシャリ6カ条」という社内向けのノウハウを模造紙にデカデカと書いて壁に張り出していたんですよ。思わず店長を呼び出して、なにをしているのかと声をかけました。すると店長は「そこまでしてまで、ウチの店舗ではうまいシャリを提供するとスタッフみんなで約束したんです」と言うんです。そこまで言われたら「しゃあないか」となるじゃないですか。

さらに、その店舗では、私も好きな「天然インド鮪7貫盛り」をスタッフが運んでくると同時に、そのスタッフのオススメの食べ方をプレゼンテーションしてきたんです。

理想のすし屋像は「昔ながらの大衆的なすし屋」

【寿司リーマン】チェーン店だとどうしてもマニュアル接客になりがちですが、個性があふれていて活気のある店舗だったんですね。

【堀江社長】私はその時に、「これだ!」と思いました。スシローにまだまだ伸びしろがあるとしたら、ここだ! と。「うまいすしが手軽に食べられる」だけでなく、「楽しくて元気になれる」という店づくりにも取り組もうと。そこで、1年前から店長会議の内容を変えました。座学中心からロールプレーイング形式に変えたのです。外の会議室を借りて、全店長で接客のロールプレーイングを行い、各店舗で生かしてもらう。それを繰り返し行うことで、以前よりも店内に活気が出てきたように思います。

【寿司リーマン】堀江社長が理想としているスシローというすし屋の姿はどこから来ているんですか?

撮影=加藤慶

【堀江社長】「昔ながらの大衆的なすし屋」かもしれません。ガヤガヤしている中で、大将の「へい、らっしゃい!」という威勢の良い声や、「はい、お釣り300万円!」というダジャレなどが飛び交う雰囲気。この感じがいいんです。だから私は、「いい接客」よりも「活気ある接客」をしましょうという方針を出しています。

それからは接客への意識も、だいぶ変わってきましたね。「当店のオススメは」ではなく、「ウチのオススメは」というスタッフが増えてきました。そのほうがすし屋っぽくていいじゃないですか。