「好き」と「得意」を判断する分析力

【山口】若い子に言うのは「まず間違っているから」と。「まず事前にはわからない」と言うんですが、わかないということが若いうちにはなかなかわからないんですね。

楠木建、山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)

でも実際には、事前にわからないというのはもちろん、事後にもわからないということが多いと思うんです。客観的に自分の状況を見て、明らかにこれよりこっちのほうが得意だよねということがわかるようになるためには、相当に自分を客体化して分析する醒めた視点がないと難しい。

柳井さんはそこがすごい方だと思うんですね。現在でもそこはすごいと思うんですよ、非常に自分を客体化できるというのは。

【楠木】そうですよね。

【山口】同じように「好き」と「得意」というのはまた別にあって、何が得意かというのはやっぱりやってみないとわからない。

やってみたとしても、相当に自分の思い込みがあって、自分の目の前に起こっている現実というのを客観視してみたとき、自分の認識が実は間違っていて、苦手だと思っていたことのほうが得意だと判断するというのは、なかなかできることではありません。

「仕事ができる人」は自分をどう評価しているか

【楠木】だから結局、何かしら自分の外にある準拠点というものをどうしても必要とすると思うんです。為末さんの場合だと犬、柳井さんの場合だと売上げですよね。

仕事ができている状態をどうやって認識するのかというと、結局のところは市場の評価だったり顧客の評価だったり、要するに他者評価にしかならない。

仕事ができるかどうか、自己評価の必要は一切ない。こう考えたほうがシンプルですっきりしますね。自分に甘いのは人間の本性です。どうしても自己評価は甘くなる。だいたい過大評価になっていると思っておいたほうがいい。

自己を客観視するということは、顧客の立場で自分を見るということです。仕事ができる人は、常にこの視点が自分の思考や行動に組み込まれている。自分が何をやってもらったらうれしいのかを考えて、それを他者にしようとする。最悪なのは自己陶酔。自己客観視が完全に失われている状態ですね。

こうなるともう自分を見失っているとしか言いようがない。

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