元プロ陸上選手の為末大さんは「ハードルのことは全然好きじゃない」と公言している。それではなぜハードル選手を目指したのか。独立研究家の山口周さんは「プロ野球などと異なり、陸上競技でプロになるにはグローバルのトップ10に入る必要がある。為末さんは『自分の身の置き場所』をよく考えている」という。経営学者の楠木建さんとの共著『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)より一部を抜粋する――。(第2回)
為末大「努力すれば成功する、は間違っている」の本当の意味
【山口】陸上400メートルハードルの為末大さんが、彼の哲学として「努力すれば成功する、は間違っている」と言ったことで炎上したりしていましたけど、彼が言うには日本のプロ野球って1軍登録選手が300人以上いて全員がプロとして食えているんですね。
つまり、野球の場合は日本国内において上位300人の中に入ればプロとして食っていけるわけです。一方で陸上競技を考えてみると、例えば100メートルスプリントとか400メートルハードルで「僕は日本国内で250位です」って自慢されても意味がわからないですよね。予選にすら出られない。
こういった種目で食おうと思ったらグローバルのトップ10に入らないといけない。これは「身の置き場所」としては非常に厳しいですよね。
【楠木】職業としてのプロのハードル選手だとそうでしょうね。
【山口】だからハードル競技はまさに稀少資源の配分としての競争の世界なんです。かたやプロ野球は日本だけでも2軍選手まで入れるとたぶん800人ぐらいは一応食えている状態なんですよね。だから、為末さんの話は「自分の身の置き場所」というのを考えたときに面白いなと思ったんです。
【楠木】面白いですね。
【山口】為末さんの場合、もともと100メートルのスプリントをやっていて、だけど100メートルのスプリントでは食えないというのでハードルに行って、そこで世界陸上でメダルを獲ってオリンピックにも日本代表で出場したという構図なんですけど、これがやっぱり競争のなかでの「身の置き場所」という話だと思うんです。