救急車もかかりつけ医も来てくれない、ヘルパーも……

救急車は来てくれない、かかりつけ医も診てくれない、ヘルパーも訪問看護師もストップとなれば、父親は死を待つのみ。深戸さんは、仕事にも行けず途方に暮れていると、幸いにも訪問看護師は来てくれた。

写真=iStock.com/Yusuke Ide
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ところが翌朝、訪問看護師から、「PCR検査を受けて陰性が確認できなければ、これ以降訪問できません」と非情の通達があり、PCR検査ができる病院を紹介される。その病院に電話をかけたが、やはり「保健所を通してください」と言われ、保健所に電話をすると、「渡航歴がないと受けられません」。たらい回しだ。

深戸さんは目の前が暗くなった。訪問看護師が来なくなれば、点滴も酸素供給機器も使えない。そうなれば父親の命が危ない。何か気に食わないとすぐに子供に手をあげるろくでもない親だったが、何の処置も受けられないままというのは忍びない。

なぜか深戸さんを拒絶し続ける母親は、父親の側で、椅子に座ったままうたた寝をして椅子から転げ落ちそうになる。そのため、深戸さんがベッドで眠るよう促すが、頑なに父親の側を離れない。深戸さんは父親の様態と母親が心配で、一睡もできなかった。

「万事休すか……」と思われたその日の夕方、訪問看護師から往診専門の医師を紹介される。

「その先生の指示で、翌日以降も訪問看護が続けられることになりました。もし1日でも止まっていたら、父は助からなかったかもしれません。訪問看護師さんは、できうる限りの感染対策をし、危険手当付きでの訪問をしてくれたようです」

深戸さんは以降、その医師にかかりつけ医となってもらい、平日は訪問看護師に両親を任せ、日曜と隔週土曜日は実家へ通い始めた。

通販狂の母親、天井まで山のように積まれたサプリ、便利グッズ…

実家に通い始めた深戸さんの課題は、ゴミ屋敷状態をどうするかということだった。

天井まで山のように積まれた荷物を見ると、テレビCMでよく見かけるサプリメントの定期購入が5~6品ほど。ほかにも便利グッズ、カラオケセット、通信教育のCDセットなど、多くが未使用・未開封で、振込用紙が入ったままのものもあった。

「注文すれば簡単に商品が届き、料金は後払い……という仕組みのものが多く、当時の実家は宅配業者がひっきりなしに出入りするので、近所でも有名だったようです」

通帳は家事全般を担当する父親が持っていたが、深戸さんが「母さんには渡さないで」と言っていたにもかかわらず、母親から催促されるままに父親は大金を下ろし、簡単に母親に渡していたようだ。

そしてその度に母親はどこかに失くしてしまい、どこへやったのか追求すると、「子連れの女が家に来てお金を持っていった!」「盗まれた!」などと言って必ず大騒ぎになったため、ついに深戸さんは父親から通帳を取り上げた。

取り上げた通帳を見ると、2018年頃から急激に貯金が減り出し、2019年秋頃にはほぼ空になっていた。そればかりか、通販で購入した品物の料金を振り込んでいなかったため、実家の郵便受けには督促状が10通以上も届いており、実家の家賃や水道、光熱費の支払いも滞っていた。