「感染と重症化・死亡の関係は断たれた」

ワクチン接種の進展を受け、英国の全人口の約84%を占めるイングランドでは7月19日、(時期によって強弱の差はあるが)約1年4カ月にわたって続けられてきたロックダウン規制の大半を解除した。

これによりマスク着用の法的義務、集会やイベントの参加人数制限などがなくなり、ナイトクラブの営業も再開された。デルタ変異株の流行で感染者数は増加しているが、ワクチン効果で1日の死者数が感染者500人~1000人に1人という低い水準に抑えられているので、ジョンソン首相は「感染と重症化・死亡の関係は断たれた」とし、解除に踏み切った。

夏休みシーズン前に解除しないと、観光、運輸、飲食業へのさらなるダメージが避けられず、政府もこれ以上の休業補償のための財政負担を回避したいという思惑もあり、ある意味で、賭けか実験のような決断だった。

今でも高齢者は100%近くがマスクを着用

しかし、法的義務ではなくなったものの、今も7割程度の人たちが、人ごみ、公共交通機関、商店内などではマスクを着用している。特に高齢者の着用率は高く、60歳から上の人たちの着用率は100%に近い。たとえワクチンを2度接種していても、感染するリスクは1割程度あるので、マスクを着用したいと考えるのは当然だ(筆者もそうである)。

またスコットランドでは、一時よりは規制が緩和されたものの、屋内外の集会やイベントの人数制限やソーシャルディスタンシング(1m)、店舗内でのマスク着用義務は依然として残っている。ウェールズでも、公共交通機関や医療・介護の現場では、マスク着用が義務付けられている。

現場の人手不足が深刻な問題に

ロンドンのサディク・カーン市長は、7月19日のロックダウン解除後も、市内の地下鉄やバスでのマスク着用義務を継続している。ロンドンに限らず、英国全土のほとんどの公共交通機関(バス、電車等)や大半の商店は、今も顧客にマスクの着用を求め、従わない場合はサービスの提供を断ることを選択肢の一つとしている。

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この背景には、公共交通機関や商店のほうでも、客がマスクをしていないと、労働者がコロナに感染し、業務の遂行に支障をきたすという切実な問題がある。

今、英国で問題になっているのは、現場の人手不足だ。人手が足りないため、スーパーなどで商品を棚に並べられず、ガラ空きの棚が出現したりしている。コロナ感染者本人と濃厚接触者に10日間の自主隔離義務が課されているからだ。