「ピンデミック」で常時300万人が仕事に出てこられない

イングランドのロックダウン解除は去る3月8日から4段階に分けて行われたが、それにともなって、それまで2000人程度だった1日の感染者数がぐんぐん増え、7月17日のピークには5万4205人というすごい数字になった。仮に毎日平均5万人が感染し、感染者1人あたり濃厚接触者が5人おり、彼らが10日間自主隔離した場合、常時300万人が自主隔離で仕事に出てこられなくなる計算になる。

自主隔離は法的義務で、違反すると1000ポンド(約15万2000円)の罰金が科される。違反を繰り返したり、他人の自主隔離を妨害したりすれば、最大1万ポンドの罰金となる。感染者が出ると、濃厚接触者に10日間の自主隔離を義務付ける警告「ping(ピン)」がNHSの追跡アプリを通じて送られるので、「pingdemic(ピンデミック」と呼ばれている。

約1年4カ月にもおよんだロックダウン期間中、業績不振によって従業員を解雇した事業主も少なくなく、商店、レストラン、パブなどは今年の春の再開前から人手不足が懸念されていた。そこにロックダウン解除にともなう感染者・濃厚接触者の増加と彼らの自主隔離が状況をさらに悪化させているのだ。

「集団免疫的状況」が作られつつある?

ロックダウン規制の解除には野党・労働党や科学者たちの反対も強かった。政府への助言機関である緊急時科学諮問グループ(Scientific Advisory Group for Emergencies、略称Sage)は、「ワクチン接種が若年層に行き渡るまでは、効果に限界があり、ロックダウン解除で感染が爆発し、秋から冬にかけて従来以上の規制をする必要が生じる可能性がある。解除後も、マスク着用やテレワークといった感染防止策は継続すべき」という趣旨の提言をしている。

サジド・ジャヴィド保健相も、ロックダウンを解除すれば、日々の感染者数は10万人になる可能性があるので、マスク着用を推奨するとしている。

一方で、今回のロックダウン解除は、多少極端な言い方をすれば、成人に十分ワクチン接種が行われて重症化・死亡リスクは極めて小さくなったので、接種を受けない人たちはもうコロナに感染してもらって、抗体を獲得してもらい、集団免疫を作ろうという思惑があるようにも感じられる。