合理性の追求と「トライアル・アンド・エラー」の文化
元々英国には、前例や常識にとらわれず、敢然と合理性を追求する文化がある。1970年代の経済危機に際しては、国営企業をあらかた売り飛ばし、1980年代には自国の証券会社がつぶれたり買収されたりするのもかまわず金融市場を開放し、1990年代には電力市場を開放し、電力会社の3分の2が外資になったりした。
また「トライアル・アンド・エラー」が許される文化もある(これも合理性の一面だ)。サッチャリズムの流れを受けて1990年代後半に国鉄を分割・民営化したが、最近、経営が上手くいっていない鉄道会社の再国営化を始めたりしている。
今回のワクチン接種計画では、注射を打つ医療関係者の数が足りないという問題を克服するため、医療資格のない素人を徹底的に訓練し、約1万人の注射打ちのボランティアを養成した。また健康な人を意図的に新型コロナに感染させ、発症のメカニズムなどを解明する「ヒューマン・チャレンジ」と名付けた世界初の臨床試験も行っている。
これら以外にも新型コロナに関してさまざまな実験や分析を行っており、わが家にも調査やモニタリングに協力してほしいという手紙が時々調査会社などから届く。
「抗体+ワクチン」の防御態勢は成功するか
ここにきて興味深い事実がある。7月17日に5万4205人を記録した感染者数が、翌日から下がり始め、22日には4万人を割る3万9318人、直近の27日には2万3511人にまで減少したのだ。
すでに英国では人口の1割近い約575万人がコロナに感染し、成人の9割近くが1回目のワクチン接種を受けているので、もう感染する人がいなくなってきたのではないかという肌感覚もある。「デイリー・メール」紙の電子版は7月28日付で、上級閣僚の1人が「集団免疫は事実上成立した」と述べたと報じている。
正確な意味での集団免疫ではなくとも、それに類似した広い防御態勢が確立されてきているのなら喜ばしいことだ。しかし、過去にもこうした一時的な減少があり、7月19日のロックダウン解除の影響もまだ十分データに反映されていないので、予断は禁物である。英国はワクチン戦略では世界のリーダー的存在で、ワクチンの効果の実験場的な感もあり、今後の動向、特に8月に感染者数・死者数がどうなるかが非常に注目される。