「弁当の顔にならない」却下続きに異動で白紙

それほどのウインナー愛があっても商品化への道のりは遠かった。商品開発から販売戦略まで担当するマーチャンダイザー(MD)に折に触れて直談判した。その結果、何度も工場で試作品を作ってもらったが、周囲からは「う~ん」という微妙な反応しか返ってこない。社内会議にかけても「見た目のバランスが悪い」「そもそも弁当の顔にならない」と却下された。

近畿運営部にいた2015~16年には5、6回試作をし、発売寸前までこぎ着けたものの、自身の異動で白紙に。「あそこで実現していれば近畿限定で発売できたんですけど、頓挫しました」と悔しさをにじませる。

「確かに、ウインナーだけで顔になるかといわれたら『う~ん』となりますが、直接消費者に訴えかるものがあれば響くことがあります。『他にはない』というのは売りになるはずだと思っていました」

撮影=西田香織
林弘昭さん

今年に入って転機が訪れる。近畿運営部時代、ボリュームに特化した4個入りのおはぎを一緒に商品化した知己のMDが弁当の開発担当になった。すぐさま「何とかウインナー弁当を実現できないか」と相談したところ、「それはいける!」。念願のGOサインが出た。

「もう少しゴマふって」と突き返した試作品

「価格は200円」「メインのウインナーは5本程度でケチャップをかける」。林さんが商品化に向けて挙げた条件は具体的かつハードルの高いものだった。

当然、唯一の主役にはこだわる。ウインナーの色でも悩んだ。

「赤ウインナーではさすがに古臭すぎるし、いまは売り場も小さくなっています。だれもが思い浮かべる普通のウインナーを弁当にしたほうがいいと思いました」

試作する側にも負担は大きい。そもそも5本で200円という価格設定はかなり厳しいからだ。試作品ではウインナーが2本しかない場合もあった。林さんは「他のおかずがないんだから、それでは成立しない」と突き返した。

それでも、ウインナーが長すぎるもの、輪切りにされてご飯の上にのせられたもの、塩コショウがかかったもの……。イメージに合うものがすぐ出てくるとは限らない。林さんは試作品を全て実食し、細部まで修正を重ねた。MDも予算に合うものを必死で探し回ってくれた。

「ご飯にゴマをふってほしいと要望したんですけど、試作品ではほんのちょっとしかふってなくて。これならないほうがいいくらい少なかったので『もう少しふって』と追加オーダーしました」

完成した弁当はサイズ感、見た目ともに林さんが最初に頭に浮かんだイメージそのもの。“隠し具材”のスパゲッティは、整列したウインナーがずれないためのクッション役を務めているという。

撮影=西田香織
ごまの量にもこだわりが

商品開発では“素人”の林さん。「料理は見た目というだけあって食欲をそそる外見が必要です。普通はウインナー弁当のような商品は作れません」と話し、実現できたのはMDの苦労や取引先の協力があってこそ、と感謝を口にする。