文在寅政権が軌道修正に乗り出した

そして文在寅政権は、少なくとも表面上、このアメリカの動きを読んで、明らかに歴史認識問題に軌道修正を加える動きに出てきた。時系列で追ってみよう。

①2021年1月18日、文大統領は記者会見で、慰安婦グループが日本政府を訴えた裁判で日本政府に主権免除を適用できないとした1月8日のソウル地裁判決について「少し困惑している」と発言。2015年の慰安婦問題合意に触れ、「日韓両政府間の公式合意という事実を認めている」とした。徴用工問題にも言及し、「強制執行方式での現金化や、判決の執行は望ましくない」と指摘した。

②4月21日、別の慰安婦グループが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル地裁は、主権免除が適用される結果、日本政府は無罪という1月8日判決とは真逆の判決を行った。

③6月7日、元徴用工や遺族が日本企業16社を相手取り損害賠償を求めた集団訴訟で、ソウル地裁は訴えを却下。原告の個人請求権は1965年の日韓請求権協定で消滅はしないが「訴訟では行使できない」とした。「この事件の請求を認めることは、国際法違反の結果を招きうる」との認識も示した。

原告はすぐに控訴する方針だが、韓国外務省は「韓日関係を考慮しながらすべての当事者が受け入れ可能な合理的な解決策を論議することについて、開かれた立場で日本と協議を続ける」と述べた。

日本が動かぬまま「開会式出席へ」と報道

他方、日本の菅内閣からは、2020年10月26日の所信表明演説で「韓国は極めて重要な隣国だ。健全な日韓関係に戻すべく、わが国は一貫した立場に基づいて適切な対応を強く求めていく」との発信が行われた。年があらたまった2021年1月18日の施政方針演説でもほぼこれと同じ主張が繰り返された。

つまり、「韓国側が政策変更をするよう要求し続ける」という方針表明から、筆者の知る限り、日本政府の立場は今日に至るまで一歩も動いていない。

オリンピック開会式の文大統領の出席報道は、まさにこういう状況下で世上に流布されることとなった。

撮影=プレジデントオンライン編集部
横浜三塔を背景にした五輪マークのモニュメント

最初、日本では「文在寅大統領が東京オリンピック開会式の7月23日から1泊2日の予定で訪日を検討中」(TBS、7月7日)と報じられた。すぐに「韓国とだけ長時間の会談は難しい」という日本政府関係者のコメントが流れ(日本テレビ、同)、8日の菅首相会見でも、従来の「韓国側に適切な対応を求める」が繰り返された後に「訪日される場合、丁寧に対応するつもりだ」とつけ加えられた。