「遺族の代わりにやってあげているという気持ち」

私は自分が手にしているタオルを見つめた。この度の特殊清掃で使用したタオルはすべて、男性宅にあったものだ。もちろんあんしんネットからもタオルを持参しているのだが、男性宅のタオルはどのみちすべて処分になってしまうため、それなら彼の家の掃除は、その物を使ったほうが良い。

笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中央公論新社)

香水はシャネルだったが、シャンプーやリンス、そのほかの製品も無添加で質のいいものを使っていた。何十枚とかけられた肌着も使い古したものではない。“きちんと物が揃っていた証”を見て、この先の人生がなくなってしまった悲しさを思う。

浴室の汚れは、元どおりとまではいえないまでも、目をそむけたくなるような血液や体液の跡は消えた。臭いも、完全にはなくなっていないが、息を止めるほどではない。

「この後、リフォームはするんですけど……」

作業の最後、浴室の排水口に配管内の汚れを落とす薬剤を流し込みながら、大島さんが言う。

「この風呂釜を替える業者だって、こんな臭いとシミがついていたら嫌じゃないですか。だから僕らができる限りきれいにする。誰かがやらなければいけないから」

マンションの外に出て、今度は溝上さんに特殊清掃に対する思いを尋ねた。

「遺族の代わりにやってあげているという気持ちですね。亡くなった現場を見られる状態にしてあげたい」(続く。第20回は7月10日15時公開予定)

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