「お義母さんリハパンはいて下さい。オシッコが落ちてて臭うんです」
そんなある日、とうとう知多さんは耐えきれなくなって言った。
「お義母さん、家でもリハパン穿いてください。オシッコがあちこちに落ちてて臭うんです」
すると義母は激怒。
「そんなこと誰にも言われたことはない! オシッコが漏れるのは病気ではないと先生に言われた! 若い時から苦労してここまできたのに、清美に言われるくらいなら死んだほうがいい!」
そう言って大号泣。騒ぎを聞きつけてきた夫に事情を説明し、知多さんはその場を離れた。
義母が寝たあと夫は、「おふくろの性格わかってるだろう。お前にしては失敗だったな。明日謝ったほうがいい」と言う。
知多さんは心の中で、「泣いたもん勝ちじゃん。本当に泣きたいのはこっちだわ」と毒を吐きたかったが、「私だって同居してからずっといろんなことを我慢してる。私がかげで泣いてるの知ってる?」とだけこぼした。妻のストレスがたまっていると感じた夫は、「週末娘のところにでも行って、ゆっくりしておいでよ」と言った。
手とおでこを畳につけて土下座「私は女優になるんだ! 演じるんだ!」
翌朝、知多さんは義母の前に素早くひざまづき、手とおでこを畳につけて、土下座の体勢になる。
「昨日はすみませんでした。言いすぎました。申し訳ありませんでした!」
知多さんがそう言うと、義母は昨日と同じことを繰り返す。
「もう長生きなんてしたくないからデイにも行かない」
「ごめんなさい。許してください!」
「今まで誰からも言われたことがないのに……」
「若いころからずっと苦労してきたお義母さんなのに、出来の悪い嫁でごめんなさい。今まで誰からも何も言われたことがないお義母さんなのに、嫁の私が言いすぎました。申し訳ありませんでした。もう二度と言いません!」
知多さんは自分に「女優になるんだ! 演じるんだ!」と言い聞かせていた。そばにいた夫は、「清美もいろいろ我慢してるんだ」と妻をかばい、「後は任せろ」と目で合図した。
その後、廊下に尿が落ちていることはなくなったが、義母は一度だけ、「清美が出ていけばいい」と口にしたことがある。それを聞いた夫は、「何言ってる! そんなこと言うな!」と怒鳴ったので、それ以降は口にしなくなった。
しかし知多さんはその晩、「出て行けと言うなら喜んで出て行くから」と夫に言うと、「アホか」と苦笑された。