勤務していた財団法人の退職金を含む亡き父の貯蓄7000万が…
相談者は、ひきこもりの弟・Aさん(57歳)を持つ、姉のBさん(60歳)。
Aさんは高校を中退後、30代前半までは、不定期ながら建築現場などでのアルバイトをしていた。お金がなくなると、少しだけ働いて、自分のこづかいをなんとか稼いでいたらしい。
ところが、30代前半のある日、アルバイト先で上司とケンカ。ケンカして帰宅した日から今日まで約25年間、無職の状態が続いている。親が働くように促し続けても、働こうとはしなかった。
Aさんの家族を紹介すると、10年ほど前に他界した父親は、現役時代、ある財団法人で70歳まで働いた人であった。在職中の収入がよく、4000万円を超える退職金をもらったことなどで、退職後は退職金を含めて7000万円程度の貯蓄を持っていた。支給される年金も、企業年金を含めると年間300万円に届くほど金額が多かった。母親(現在86歳)は、結婚以来、専業主婦として暮らしてきた。
父親との衝突で、自殺をほのめかすように
人より長い期間働き、勤務先では役職に付いていた父親は、「男は働くのが当たり前」という考えの人だった。当然働かず、フラフラしているようにしか見えないAさんの態度には、相当な不満を感じていたことが想像できる。姉のBさんは結婚し独立しているが、父親がAさんと顔を合わせると、「いいかげんに仕事をしろ!」と怒鳴り散らす機会も多かったと、よく母から泣き言を聞かされていた。
「働け!」「自分の生活費は自分で稼げ!」と責められ続けるAさんは、30代後半くらいからは自殺をほのめかすようになった。時には、薬を大量に飲むこともあったようで(薬自体は市販の胃薬などだったらしいが)、本当に自殺されてはたまらないからと、母親が近所にアパートを借りて、Aさんにひとり暮らしをさせた。父親とAさんの怒号が飛び交う生活に、母親が耐えられなくなったからである。
それから約20年の月日が流れた。その間、厳しかった父親は亡くなり、母親は実家でひとり暮らしを続けている。退職後には7000万円の貯蓄を持ち、悠々自適となるはずだった母親の生活については、貯蓄が1000万円を切っているのが現状だ。
母親はすでに要介護2の認定を受けて、在宅で介護を受けている。要介護3になったら、特別養護老人ホーム(以下、特養)への入所申請を計画していたが、特養の費用とAさんの生活費の両方を負担するのは無理である。どのようにしたら母親の介護が成り立ち、Aさんも生活していけるのか、悩んだ末に姉であるBさんが筆者のもとを訪ねてきた。