長男の資金援助は年50万~100万円カット、月2万~3万円稼いでもらう
話を戻すが、売却したお金は母親のものとして銀行に預ける。Aさんの生活費だとしても、Aさんの口座にまとめて入金すると、贈与に該当する可能性が出てきてしまうからだ。売却が実現したら、「母親からの生活費援助」という名目で、Aさんに渡していく予定。渡す方法や頻度などは要検討事項になる。
Bさんも妹も、「自分たちがAの生活費を援助しなくて済むなら、母親の相続が発生した際に、実家の売却代金の残りは、全部Aにあげても構わない」と言っている。相続時の意思確認もできたので、あとはAさんに実家を売却することを伝えるとともに、Aさんの生活費の削減提案をしていく。
実家の売却が実現すれば、Aさんは今のアパートで暮らし続けられる。だが、今までと同じ水準、つまり年間250万円もの資金援助はできない。家賃と生活費を合わせて、年間150万~200万円程度の生活費で暮らしてもらいたいところである。
加えて、正規の雇用はあきらめても、福祉事務所や社会福祉協議会、社会福祉法人などを通して申し込める「自立相談支援事業」などの就労支援を活用して、せめて月に2万~3万円は稼いでもらえるように促していく。長く続けてきたひとり暮らしで、人と話す機会はほとんどない。受け答えなどの訓練を受けなければ、就労は難しいだろうと、Bさんが心配しているからだ。
ところで、Aさんの老後生活を想像してみる。Aさんの国民年金保険料は、母親がひと月も滞納なく払い続けている。母親が施設に入居した後は、Aさんが60歳になる(59歳11カ月)までの2年くらいは保険料を払えなくなるが、その間は「申請免除」の手続きをするのが適当である。申請免除が認められると、保険料負担はなくなり、いっぽうで保険料(満額)を払っている人の2分の1の年金が加算される。老齢基礎年金の2分の1は国庫から出るお金だからだ。申請免除を受けても、Aさんは月約6万円ちょっとの老齢基礎年金を、65歳から受け取れる計算になる。
年金の受給が開始すれば、貯蓄の取り崩しペースは緩くなる。売却予想価格内で、Aさんのひとり暮らし生活は成り立ちそうだが、Aさんが今より生活費を減らせる保証はない。またアパートの更新料が発生したり、今よりも古くなったら引っ越しの必要が出るかもしれない。そんな特別支出に備えて、Aさんにも数万円程度は働いてもらえるように促していく。
現在の特養は、安い施設と言い切れなくなっている
ちなみに、家を売却して資産が増えた場合、特養の月々の費用負担は高くなる。単身者で1000万円を超える資産があると、軽減措置(補足給付)が受けられなくなるからだ。将来的には資産基準が1000万円より引き下げられる見込みにもなっている。
母親は介護費用の自己負担割合が1割であるが、自己負担割合が3割の人だと、特養の月々の費用は25万円を超えるケースも増えている(ユニット型特養の場合)。もはや「特養は、安い介護施設とは言い切れなくなっている」ことを知っておく必要があるだろう。
母親の住み替えプランを検討する中で、最初は母親本人やご家族が望むように、要介護3以上になったら特養へ転居するプランも考えたが、介護型ケアハウスと費用負担に差がなく、自己負担するものの金額によっては、特養のほうが高くなる可能性もある。
そのため、特に問題が起こらない限り、母親は介護型ケアハウスで暮らし続けることを想定している。筆者が紹介した介護型ケアハウスは、看取りも可能なので、重い病気で長期入院でもしない限りは、終の棲家にできる。ケアハウスには資産基準がないため、マイホームを売却して貯蓄が増えても、月々の費用負担に影響がない点もありがたい。