中学時代にいじめやからかいに遭い、ひきこもりになった長男(33)。ここ20年間、一度も働いていなかったが、父親が定年間近で「そろそろ働かなきゃ」と動きだした。当初、社会に出ることへの恐怖心が強かったが、厚生労働省委託のNPOなどが運営する地域若者サポートステーションや勤務先の心優しい同僚にも支えられながら、初任給の2万円を手にした――。
自宅でコーヒーを楽しむ人の手元
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです

ひきこもってから20年経過して33歳になった長男の「復活」

ある日、ひきこもりの長男(33)を抱える母親(57)が筆者のもとへ相談にやってきました。緊張しているせいか、硬い表情のまま母親は相談の目的を告げました。

「主人(59)は来年で60歳になり定年を迎えます。そのためか、最近になって長男はお金の不安を口にするようになってきました。そこで主人が定年を迎える前にお金の見通しを立ててみて、それを長男にも伝えておきたいのです」

「なるほど、分かりました。では、まずはご家族構成やご長男のことからお話いただいてもよろしいでしょうか」

筆者はそう言い、母親から聞き取りをすることにしました。

【家族構成】
父 59歳 会社員
母 57歳 専業主婦
長男 33歳 無職
長女 29歳 既婚。両親家族とは別居

長男は小さい頃からぽっちゃりとした体形で、動作もゆっくりしていました。会話のキャッチボールもあまり得意な方ではなく、相手の求めているであろう受け答えをすることが難しかったそうです。そのためか、中学生の頃に、からかいやいじめの標的にされるようになってしまいました。ひどい時には後ろから頭をたたかれたり、背中を蹴られたりといった暴力も受けたそうです。

母親は学校の先生に相談をしましたが、先生からは「皆と遊んでいるうちに少しエスカレートしてしまっただけでしょう」というような受け答えで、真剣に話を聞いてくれませんでした。

そうこうするうちに長男の様子がだんだんおかしくなってしまいました。元気がない、食欲がない、いつもお腹を下しているといった症状が出てきたのです。

心配した母親は長男と話し合った結果、しばらく学校を休むことにしました。少しの間だけ休むつもりだったのですが、復帰のきっかけもつかめず、そのまま長男はひきこもるようになってしまいました。

父親は当時も会社員で仕事に忙しく、長男のことは母親に任せっきり。母親は「このままではいけない」と思いつつも、長男は両親に暴力をふるったり暴言を吐いたりすることもなかったので、何もしないまま日々を過ごしてきました。

気づけば、20年近くの歳月が経過していました。現在、父親は定年間近、長男も30歳を超え、本人に焦りが見られるようになったそうです。