「学力も技術も何もないから正社員にはなれない。働くのは無理だ」
母親は険しい表情で長男の話を続けました。
「長男は『そろそろ働かなきゃ』ということを口にしています。ですが、その一方で『正社員にならないと、途中でお金が足りなくなって生きていけない。でも自分には学力も技術も何もないから正社員にはなれない。もう働くのは無理だ』と嘆いているのです……」
筆者は次のようにお答えしました。
「確かに『働く』ということを考えたとき、どうしても『正社員になって自活できるようになる』といったことをイメージしてしまいがちです。ここで言う『自活』とは、例えば月に20万円くらい稼げるようになり、自分の生活費は自分で何とかする、といったことを指します。本来なら自活できるようになるのが望ましいと私も思います。ですが『自活することが難しい方もいる』というのが現実です。そして『自活できなければ働く意味はないのか? 生きていけないのか?』というと、そんなことはないとも思っています」
そして、次のような提案をしてみました。
「正社員にならないと本当に駄目なのか? 将来お金が足りなくなってしまうのか? 大まかになってしまいますが、今ここでお金の見通しを立ててみましょうか」
「はい。お願いします」
母親はそう答えたので、筆者はさらに聞き取りをしていきました。
現金預金 3500万円(父親が60歳の時にもらえる退職金1000万円を含む)
自宅の土地 1500万円
【収入と支出】
■収入
父親の給与 手取りで月額 約40万円
※60歳から65歳は継続雇用 手取りで月額 約20万円
■支出
基本生活費など 月額 約26万円
親亡き後、長男は生き延びることができるのか
父親が65歳から継続雇用で働くようになった後は支出を見直さないと月額6万円ほどの赤字になってしまいます。そこは父親と母親のお小遣いを見直すことで赤字を月額3万円以内に抑えるようにしてみる、ということになりました。
年金生活に入った後は両親の年金収入の合計は月額で24万円ほどになるとのこと。それならば、年金生活に入った後も赤字が急拡大することは今のところなさそうだ、ということが分かりました。
そこまで確認した筆者は、次に親亡き後の長男のお金について考えることにしました。
まずは「長男の親亡き後の生活は何歳から何歳までの間になりそうか?」というおおよその見通しを立てるところから始めます。