激務とストレスで2年に一度は入院

一方、法的に勝っても、次はどうやって相手を傷めつけてやろうかと怒りをつのらせる人たちもいる。そう思い続ける限り、本人も幸せではないだろうと、中原さんは考える。そうした負の感情に弁護士自身も引きずり込まれてしまうことがあった。仕事は際限なく、朝8時から夜中まで働き詰め。土日も休めなかった。

弁護士時代は過労のため2年に一度は入院していた。(写真提供=ラッセルコーチングカレッジ)

「弁護士はすごく地味で泥臭い仕事なんです。依頼者との関係があるので他の人に仕事を任せられない。作業の量は多いし、危険なこともあります。怒りを抱えた相手方が事務所へ入ってきて、乱暴することもあるんですね。そういうトラブル全体を引き受けるので仕事のストレスは大きいのです」

過労から突発性難聴や胃腸炎などを発症し、2年に一度は入院していた。入院中もパソコンを持ち込んで仕事を続け、依頼人からの相談には24時間応じる。主治医に頼み込んで一時外出の許可をもらい、裁判所へ出かけることもあった。

「仕事に行きます、痛み止めをお願いします!」

そんな日々のなかで、果たして自身の幸福度は高かったのだろうか。すると中原さんは苦笑交じりにこう漏らす。

「人生でいちばん低かったと思います。すっかり自分を見失っていましたね。忙しくなるほど目の前のことに追われてしまい、働き方を変えられなかった。自分に立ち返らせてくれるような存在もいなくて、悲観的でネガティブな性格が拍車をかけていく。人生の沼にはまりこんでいるようでした」

その沼から這いあがるきっかけは、6回目の入院だった。弁護士生活も10年経とうとする頃、あまりの腹痛に耐えられず、足を引きずりながら近くの医院へ行った。

「とにかく痛み止めだけ打ってください。これから仕事に行くので……」

受付でそう話しているうちに意識が遠のき、気がついたら救急車で総合病院へ。後に聞くと、盲腸が破裂して、大腸の壊死がかなり進行していたという。それでも救急車の中では「仕事へ行きます、痛み止めをお願いします!」とずっと叫んでいたらしい。

入院後はしばらく体を動かせず、原因不明の出血と不調が続く。療養生活は2カ月以上に及んだ。

「さすがに働くことって何だろう、と考えました。弁護士として関わってきた人たちの生き方を振り返ると、やっぱり法的評価は絶対ではないと思う。人の幸せとは、法的な勝ち負けで得られるものではなく、すべては心のあり方です。どんな事件も必ず終わりがあるわけで、その先に見える空をどういう色に染めるのかということが大切。そこで行き着いたのが『well-being』という言葉でした」