弁護士を辞めて普通の会社員になりたい

この言葉が世界的に知られたのは、1947年に採択された世界保健機関(WHO)憲章だ。その前文で「健康」についてこう定義している。〈健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます〉(日本WHO協会・訳)。日本ではこの「well-being」が「幸福」と訳されていた。

中原さんが弁護士という職業を選んだのは、人の幸せのために役に立てたらと思ったから。だが、10年続けたときに疑問を感じた。自分の求めるものはこれだったのか、もっと人の幸せのためにできることがあるんじゃないか……と。もう一度「幸せ」というものを見直そうと思い、またも大胆な決意をした。

「とにかく弁護士を辞めて、普通の会社員になろうと思ったんです」

人生の大先輩が諭してくれたこと

なんと50歳にして、ゼロからの就職活動を始めた中原さん。「法律」以外の仕事を手当たり次第に探していたが、人生の大先輩と仰ぐ人に諭されたのだ。「あなたが『well-being』を本当に考えるなら、それを貫いた方がいいよ」と。その言葉にハッとしたという。

企業でコーチングの研修を実施。
企業でコーチングの研修を実施。(写真提供=ラッセルコーチングカレッジ)

思えば人の幸せのためにと言いながら、自分の幸せはずっと後回しにしてきた。弁護士の仕事も頑張りすぎるあまり、体も心も疲弊しきって倒れてしまったのだろう。自分が幸せでなければ、人を幸せにすることはできない――。そう反省した中原さんは、もう一度勉強からやり直そうと思い立つ。

臨床心理学、発達心理学、行動経済学、マインドフルネス、ポジティブ心理学、交流分析、カウンセリング、NLPなど、あらゆる「心」に関する学びに取り組んだ。心理学の領域は新しい知見が次々出てくるので、どんどん引き込まれていく。なかでも注目したのが「コーチング」だった。

「相手の可能性を無限ととらえ、すべてのことは本人が答えを持っていると信じる。その能力を引き出し、成長へ導いていくというコーチングの本質に惹かれました。スクールという形で学べる場をつくり、それが広がって社会のコミュニケーションやインフラに活かされたらいいなと思ったのです」