「開封した牛乳を置きっぱなしにするカルチャー」があった

ナデラCEOは自著の中でこう書いています。

「かつてのマイクロソフトの文化は柔軟性に欠けた。社員はほかの社員に対し、自分は何でも知っており、そのフロアの中で最も優秀な人間だと絶えず証明しなければならなかった。期日に間に合わせる、数字を達成するといった責任を果たすことが何よりも重視された。会議は型どおりで、すでに会議の前に詳細が余すところなく決まっていた。直属の上司よりも上の上司との会議はできなかった。上層幹部が組織の下のほうにいる社員の活力や創造力を利用したい場合には、その人間の上司を会議に呼ぶだけだった。階級や序列が幅を利かせ、自発性や創造性がおろそかにされていた」(『ヒット・リフレッシュ マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』日経BP)

1つ面白いエピソードがあります。当時のマイクロソフトには「開封した牛乳を置きっぱなしにするカルチャー」が蔓延していた、というのです。

「マイクロソフトの社員は、冷蔵庫から8オンス(約240ml)の牛乳パックを取り出して開封すると、ほんの少しの牛乳をコーヒーに注ぎ、次の人がすぐ使えるようにと、開封した牛乳パックをそのまま置きっぱなしにした。だが、いつ開封されたのか分からない、安全かどうかも分からない牛乳を使いたい人はいなかった。次の人は新しい牛乳パックを開け、同じように置きっぱなしにした。このサイクルは続いた」(ビジネスインサイダー2017年10月3日)

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「すべてを成長という視点でとらえる」思考法へ

1つのやり方に固執し、変化や成長を拒絶する思考、既得権益にしがみつく思考。ナデラ改革とは、この固定マインドセットを「成長マインドセット」に変えようとするものでした。成長マインドセットとはすなわち「すべてを成長という視点でとらえる」思考法のことです。

例えば、ミスから学ぶこと。リスクを取って、よい結果につながらなかった場合、それを責めることなく教訓にすること。絶対的な正しさを求めるのではなく、常にオープンで様々な考え方に対して前向きに取り組むこと。チャレンジや変化を促し、新しい取り組みを恐れないこと。これらが、人が組織の成長を促していく、というのです。

「固定マインドセットを成長マインドセットにアップデートする」。私が言い換えるとするなら「知的正直」です。それだけのことが、没落しつつあったマイクロソフト帝国再興の足がかりとなりました。牛乳パックの一件も、次のような決着を見せています。

「同社はこのサイズの牛乳パックの使用をやめ、代わりに1リットルパックを導入して、この問題を解決したようだ。社員はコーヒーに牛乳を入れると、次の人のためにパックを冷蔵庫に戻す。問題は無事、解決だ」(同)