マイクロソフトはコロナ禍の株式市場で、最も高く評価された企業の一つだ。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「7年前までは、モバイル化とクラウド化に乗り遅れて停滞していた。だが、2014年に就任したナデラCEOによる大改革がすべてを変えた」という――。

※本稿は、田中道昭『世界最先端8社の大戦略 「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』(日経BP)の一部を再編集したものです。

米マイクロソフトの新製品発表会、2画面スマホ、Surface新作などが登場=2019年10月2日
写真=AP/アフロ
米マイクロソフトの新製品発表会、2画面スマホ、Surface新作などが登場=2019年10月2日

クラウド化・モバイル化に乗り遅れ、GAFAに敗北

マイクロソフトはコロナ禍の中で株式市場に高く評価された企業の筆頭でもあります。時価総額は1兆9000億ドルを超え、アップルなどと時価総額の世界トップ争いを繰り広げています。業績も好調です。その主たる要因はクラウド事業です。

マイクロソフトといえば、PCのOS(基本ソフト)で圧倒的なシェアを獲得している「ウィンドウズ」の会社であり、「IT業界の盟主」である。そんなイメージを長年変わらずお持ちの方も多いかもしれません。

しかし、ほんの数年前までマイクロソフトは停滞期にありました。ウィンドウズやワード、エクセル、パワーポイントなど、ビジネス向けのアプリケーションをまとめたパッケージソフト「Office」を収益の柱として成長を続ける一方で、モバイル化、クラウド化という技術革新の波に乗り遅れ、GAFAの台頭を許したのです。

マイクロソフトはGAFAの台頭を手をこまねいて眺めていたわけではありません。2000年代初頭にはモバイル用OS「ウィンドウズ モバイル」を開発し、モバイル進出を画策しました。

存在感を失った原因は「ビジネスモデルの古さ」

しかし「ウィンドウズ モバイル」はPDAと呼ばれる携帯情報端末への搭載が進んだものの、スマホ対応は遅れました。2011年には、当時携帯電話市場で首位だったフィンランドのノキアと提携し、「ウィンドウズ モバイル」を搭載したスマホ「ウィンドウズフォン」を発売しましたが、時すでに遅し。

すでにスマホ市場はアップルの「iOS」とグーグルの「アンドロイド」によって席巻された後のことでした。当時のCEOスティーブ・バルマーは2013年にノキアを買収し、アップルとグーグルに戦いを挑みましたが、これも戦局を変えるには至らず、引責辞任を余儀なくされました。

クラウド事業においては、アマゾンの後塵を拝しました。アマゾンがAWSをリリースしたのは2006年のことです。当時は競合サービスがなく、AWSはまたたく間に市場シェアを獲得しました。

マイクロソフトのクラウドサービス「ウィンドウズ・アジュール」がリリースされたのは、アマゾンに遅れること4年の2010年。しかも当時のマイクロソフトは、クラウド事業に消極的でした。

理由はマイクロソフトのビジネスモデルにあります。当時のマイクロソフトの収益の柱は、パソコンにOSとしてインストールされるウィンドウズのライセンス料と、1本当たり数万円で販売されるパッケージソフト「Office」の販売でした。クラウド上でこうしたアプリケーションを提供し始めると、これまで主力だったパッケージソフトの存在意義が失われてしまいます。いわば、新規事業と既存事業が売上を奪い合う「カニバリズム」が起こるのです。

しかし「PCからモバイルへ」「パッケージソフトからクラウドへ」という時代の流れはもはや不可避なもの。それは誰の目にも明らかでした。こうしてマイクロソフトは存在感を失い、IT業界の盟主の座をGAFAに明け渡したのです。