ペロトンは米国で急成長しているベンチャー企業だ。主な事業はフィットネスバイクの製造・販売だが、そのユニークなビジネスモデルから「フィットネス業界のネットフリックス」とも呼ばれる。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「最大の特徴は『売って終わり』にしない点にある」という――。

※本稿は、田中道昭『世界最先端8社の大戦略「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』(日経BP)の一部を再編集したものです。

ペロトンの公式サイト。フィットネスバイクに乗る男性
画像=ペロトン公式サイト
ペロトンの公式サイト。フィットネスバイクに乗る男性

月額4200円のネット番組を会員310万人が契約中

ペロトンはフィットネスバイクのDXによってフィットネス業界にイノベーションをもたらしている企業です。ペロトンという言葉には、マラソンや自転車競技などの走者の一団、集団、グループ、仲間といった意味があります。

ペロトンの事業領域は多岐にわたりますが、まずはフィットネスバイクの製造、販売が挙げられます。他社製品がせいぜい5万円程度のところ、ペロトンのフィットネスバイクは2245ドル(約24万円)という高付加価値製品です。

もっとも、ペロトン最大の特徴はフィットネスバイクというハードを「売って終わり」ではないことです。ペロトンはSaaS企業でもあります。ニューヨークのスタジオからエクササイズ番組を24時間ストリーミング配信し、また7000以上のクラスをオンデマンド配信しています。これによりユーザーは「自宅に居ながらにしてフィットネスのクラスが受けられる」のです。月額料金は39ドル(約4200円)。310万人(2020年6月30日現在)の会員を集める、世界最大のインタラクティブ・フィットネスプラットフォーム、それがペロトンです。

高額のハードを売ってサブスクでサービス提供
画像=『世界最先端8社の大戦略』

ハードを起点にサブスクモデルを展開

ペロトンの急成長ぶりは株式市場からも評価されています。2019年9月にニューヨーク証券取引所に上場し、2020年4月頃までの株価は20ドルから30ドルで推移していましたが、5月に入ると上昇を始め、10月には130ドル台に達しました。背景には新型コロナウイルスの影響があります。「ステイホーム」により自宅でのフィットネス需要が爆発し、有料会員が増加したのです。

もっとも、ペロトンの成功は新型コロナによる追い風のみが理由ではありません。まず指摘したいのは、ペロトンがフィットネスバイクという事業の本質をDXしたこと。裏を返せば、DXすべき本質を誤らなかったことです。

フィットネスバイクの本質とは何でしょうか。私が思うにそれは「自宅で手軽に運動できる」という点です。これをDXにより「サブスク型オンラインレッスン」へとアップデートさせたのがペロトンです。

「SaaS+a Box」というビジネスモデルもキーワードです。Boxとはハードのこと。ペロトンがフィットネスバイクの製造・販売をしていることがこれにあたります。SaaSは月額制のストリーミングサービスを指しています。アップルならiPhoneがハードに、アップルミュージックやアップストアなどがSaaSに相当します。ハードを売って終わりにするのではなく、SaaSのみに注力するのでもなく、ハードを起点にサブスクリプションモデルを展開しているのです。これは日本が誇る製造業=ものづくりの強みも活かせる新たなSaaSの形としても、注目に値します。

ただし、ここで私が論じたいのは、ペロトンが「SaaS+a Box」というビジネスモデルを選んだ理由です。