フィットネスバイクは「経験への入り口」に過ぎない

繰り返すように、ペロトンのビジネスは「売って終わり」ではありません。むしろ「継続して愛用してもらう」ことに力点が置かれています。

顧客はペロトンのフィットネスバイクを起点として、様々なサービスを手にできます。フィットネスバイク自体は、次々と便利な経験(エクスペリエンス)を積み重ねていくための入り口に過ぎない、とも言えます。

わざわざリテールを展開するのも、カスタマーエクスペリエンスのためにほかなりません。ペロトンはD2Cでオンライン販売するだけではなく、全米24のモールにリアル店舗を展開しています。それは、フィットネスバイクを売るためではありません。顧客とのリアルな接点を作り、試乗体験などを通じて優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するためです。

現に、ペロトンのNPS(ネット・プロモーター・スコア)は全米でテスラに次ぐ第2位です。フォーリーCEOは、NPSが高い企業の共通点を「自前の店舗を持っていること」だと指摘しています。確かにテスラもD2Cでありながらリアル店舗を持つ企業であり、垂直統合にこだわる企業なのです。

「2つの重要な円が交差する企業は3社しかない」とフォーリーCEOは胸を張ります。すなわち、ビジネスモデルのイノベーションによって成功している企業は数あれど、自動車やスマホなどソフトとハードにおける優れたUX企業と、ECなどで消費者に直接モノを販売するD2Cのイノベーター企業、そのどちらの領域にも属する企業は、アップルとテスラ、そしてペロトンしかいない、というのです。

「2つの重要な円が交差する起業は3社しかない」
画像=『世界最先端8社の大戦略』

「宗教を代替するようなコミュニティ」を創る

フォーリーCEOは次のようにも語っています。

田中道昭『世界最先端8社の大戦略 「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』(日経BP)
田中道昭『世界最先端8社の大戦略「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』(日経BP)

「宗教を代替するようなコミュニティの創造がミッション」

ユーザーの間では、「ペロトンする」という動詞が使われています。これはペロトンが最強のブランド力を手に入れた証だといえるでしょう。マーケティングの大家フィリップ・コトラーは、「本物のブランドになるには文化ブランドになることが不可欠だ」と語りました。文化ブランドとは社会的課題に対峙して、その成果が人々に受け入れられることを意味しています。

それでは、ペロトンが対峙する社会的課題とは何か。フォーリーCEOは「アメリカで宗教コミュニティに属する人がどんどん減っている」と指摘しました。このままでは、従来の宗教コミュニティが人々に提供していたものが失われてしまう。フォーリーCEOは、「導き、儀式、帰属、コミュニティ、内省、霊性、祭式、音楽の価値を提供しようと考えている」と宣言しました。