効果を確かめたければ厳密な実験を行うべき

筆者からの、『食品と暮らしの安全』へのアドバイスですが水で洗った場合と比較するとよいでしょう。これを対照実験(ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験)といいます。

また、より厳格なテストをされるとよいでしょう。分析機器が使えない場合は、先の注(*4)にあるような口紅や牛脂を使って水洗い、“洗濯マグネシウム”、石けん・洗剤の比較をするのです。

正確には、人工汚垢布おこうふ(人工汚染布ともいう。油・泥・タンパク質などが混じったかなり頑固な汚れを塗布した布。頑固な襟汚れをモデルにしている)を縫い付けたテストクロスを使って実験するのがいいでしょう。

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ふつうの洗濯と同様に他の洗濯物を加え、水位を「中」、洗い8分、すすぎ2回、脱水5分で3回行い、選択後の布の光の反射率をはかり、反射率から洗浄率を求める実験を3回行って平均値を出すことで厳密な結果が得られます。

例えば、北海道消費者センターは、このような方法で「重曹で洗濯、洗浄率は?」というテスト結果を報告しています(*6)

 水よりも重曹を用いた方が洗浄率の上昇が見られます。一方で、洗濯マグネシウムと水でできる水酸化マグネシウムというアルカリは、マグネシウムが水と反応するのに時間がかかります。

また、できるアルカリの量がわずかなため、重曹を溶かしたよりもアルカリ性がずっと弱く、洗浄力は水だけで洗う場合とほとんど変わらないのです。

(*6)重曹で洗濯、洗浄率は?~液体石けん以外との併用は効果なし~

「科学的な用語」に騙されてはいけない

すでに述べたように、洗濯マグネシウムのアルカリ剤としての効果はないに等しいのです。

それが化学としての結論です。

現在、小学校の理科では対照実験が推薦されています。このケースも、水で洗うことと比べるのです。水という溶媒(ものを溶かす液体)にはわれわれが考えている以上に洗浄効果があるのです。

しかし、水が苦手な汚れがあります。それが油や脂肪の汚れです。

そこで、仲の悪い水と油・脂肪の間を取り持って、油・脂肪汚れに取りついて繊維から引き離し、再付着させないのが石けん・洗剤です。石けん・洗剤の中心は水と油を取り持つ界面活性剤。それに、洗浄力を高めるための助剤や酵素なども働きます。

「アルカリで洗う」「水素も汚れ落としに一役」など、アルカリなり水素なりの化学の用語があると、つい、「この話は化学的(科学的)な根拠があるに違いない」と思いがちです。「水素水」も、一部には科学的によいイメージがあります。

私たちのまわりには、人びとの科学への信頼感を利用して、科学っぽい雰囲気をして、実は科学的にはおかしな説明が満ちあふれています。筆者はそれをニセ科学として世に警鐘を鳴らしてきました。

ニセ科学かどうか見抜くのは大変です。今回のケースでいえば「対照実験」の重要性がわかりました。また、客観的に調べられているかも大切です。「思い」のアンケート調査の結果では根拠として弱すぎます。