顧客層の拡大に有効な「コア&モア戦略」

「NISHIKIYA KITCHEN」ブランドを拡大して高級店を中心に販路を拡大しつつ、全国の無印良品へB to B営業を通して売り上げを伸ばす。このやり方は、マーケティングの「コア&モア戦略」と合致する。

コア&モアとは、ブランドの核となる「コア」となる顧客の心はつかみながら、コアを逸脱しない範囲で販路を広げ、さらなる顧客「モア」をつかむ戦略である。

著名な事例では、吉野家が既存顧客を維持したままで、クリーンで広い店舗を用意し、女性や家族連れのファンを増やした直近の戦略がある。

このコア&モア、できれば理想的だが、実行するのは極めて難しい。コア、つまり既存顧客はブランドの変化に敏感だ。「これは私向けではなくなってしまった」と思えば、すぐに他のブランドへ移動してしまう。消費者は元来、浮気性なのだ。

そこで、この「コア」層のイメージを崩さないよう、慎重に他の顧客を開拓せねばならない。NISHIKIYA KITCHENの場合は、無印良品というヴェールをかぶることで、NISHIKIYA KITCHENファンには透けない形で販路を拡大した。

そして、たとえ無印良品のカレーがNISHIKIYA KITCHEN製だと分かっても、NISHIKIYA KITCHENの「ごちそうレトルト」と、無印良品の「本当に良質なものを、手に届く価格で届ける」ブランドイメージは、そこまで相反しない。

だからこそNISHIKIYA KITCHENは、自社ブランドと無印良品のカレー、両方のビジネスを成長させられたのである。

安易なブランド方針の転換によって失敗するケースも

「いまの顧客も維持しつつ、さらに新しい顧客を得たい」というのは、どの企業も願うことだろう。とはいえ、実際には安易なブランド方針の転換によって、既存顧客も失い、さらに新規も得られず閑古鳥となったブランドの屍が並ぶ。

たとえば、現在絶好調のマクドナルドも、2007年からの数年間、コーヒーメニューやパンなどのデリを中心とした新型店「マックカフェ」を展開し、失敗している。

商品の単価を引き上げて、スターバックスなどのコーヒーチェーンに対抗しようとしたが、本来の中心顧客であるファミリー層の支持を失い、経営上の課題を抱えることになった。その後のマクドナルドはファミリー層に回帰することで、復調している。

コア&モアは、慎重で計画的なプランニングによって初めて成功する難易度の高い戦略だ。

安易に模倣すれば、会社の経営ごと傾くリスクすらある。その中でもにしき食品と無印良品のブランドによる販売戦略は「法人向けにブランド名を出さない販売と、一般消費者向けのブランドを別名義で展開する」という、コア&モアを成功させる優れた手法の例と言えるだろう。

関連記事
あえて薄いコーヒーにしたら24億本…サントリー「クラフトボス」の当てた鉱脈
知名度ゼロの下請け企業が「2万円超のトースター」で大ヒットを生むまで
「おひとりさまの『キッチンに行くのが面倒』に応えた」社員35人の会社がヒット商品を連発できるワケ
「作業着なんてムリ」そんな若者を惹きつけた"スーツに見える作業着"誕生秘話
40代で一気に「顔の老化」が進む人が毎朝食べているもの