公務員の定年延長が庶民の年金支給開始年齢の引き上げにつながる理由

なぜ公務員の定年延長が、私たちの年金の支給開始年齢の引き上げにつながるのか。それは、これまでの政府の動きや定年延長と年金の関係の経緯を見れば明らかだ。

そもそも定年の引き上げと年金の支給開始年齢は切っても切れない関係にある。

古くは1954年に厚生年金法改正で受給開始年齢が55歳から60歳に段階的に引き上げられたことで、法定定年年齢を55歳から60歳に引き上げる原動力となった。

高齢法の65歳までの雇用確保義務も1990年代から2010年代にかけて進められた厚生年金65歳までの段階的引き上げに対応するためであった。

つまり公的年金の支給開始年齢の引き上げに伴う空白期間を穴埋めするために定年を引き上げてきた。

それでは、公務員の定年を先に引き上げる理由は何か。

実は公務員定年延長法案は2020年3月に国会に提出されたが、当時の担当大臣の武田良太国家公務員制度担当大臣は記者会見で「国家公務員から率先垂範し、民間企業のロールモデルとして役割を果たす」と述べている。

つまり民間企業に導入にするために公務員からやりますと言っているようなものだ。

写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです

実は公務員の定年延長は与党の自民党から提起されたものだ。そのきっかけは2017年5月10日に出された「自由民主党一億総活躍推進本部」の「一億総活躍社会の構築に向けた提言」だ。

「65歳完全現役を推進し人生二毛作の発想を支援すべきである」

同本部は当時の安倍晋三政権が掲げる一億総活躍社会を後押しするべく女性や高齢者の就業促進の政策を提言している。その中で特に推進すべき取り組みのひとつとして公務員の定年引き上げを掲げ、こう述べていた。

「公務員の定年(60歳)につき、2025年度に65歳となる年金支給開始年齢引上げにあわせて定年引上げを推進すべきである。また、民間企業における65歳完全現役を推進するため、新たな活躍の場の発掘や出向支援・学び直し等(人生二毛作の発想)を支援すべきである」(提言)

一億総活躍をうたいながら公務員の定年引き上げはやや突飛な印象を受けるが「かつて完全週休二日制が公務員主導で社会に定着していったように、公務員の定年引上げが民間の取り組みを先導し、我が国全体の一億総活躍社会をけん引することも期待される」(65歳以上のシニアの働き方・選択の自由度改革PT提言)と書かれているように民間企業の65歳定年制を促す狙いがあった。

同本部で中心的な役割を担った国会議員は筆者の取材に定年引き上げの理由についてこう語っていた。

「中小企業はすでに65歳定年を超えて70歳以上でも継続して働いている。中小・零細企業は元気であればずっと働いてほしいという時代に変わってきたが、変わっていないのが、大企業と公務員だ。今までいろんな議論があったが、まず公務員の現場から変えていくことで、民間も含めて70歳現役社会にしていこうということだ」

公務員の定年の引き上げによって民間の65歳定年を促進し、法定定年年齢を65歳にしたいとの思いがある。