「ものすごい能力を秘めた道具」が眠っていた

さまざまな料理道具を実際に使ってきて、確信したことがあります。「万人に合う道具がないように、すべての人に使いにくい道具もない」という当たり前なことです。

万人が使いやすいよう平均的につくられた道具ではなく、限られた人だけが大満足するような道具が売れな筋にはたくさんあります。そして、多くの人が気づいていないだけで、ものすごい能力を秘めた道具も売れな筋の中にたくさん眠っていたのです。

飯田屋にとって売れな筋は、大手との差別化のための最終兵器というだけでなく、今では運命共同体のような存在です。

もし、僕たちが売れな筋を発掘しなければ、それをつくる職人さんたちはやがていなくなってしまいます。すると何が起こるでしょうか。

売れ筋で大手企業との戦いに挑むしかなくなり、結果的に自分たちの首を絞める結果につながります。飯田屋にとって売れな筋の仕入れは、継続的なものづくりを実現してもらうための投資でもあるのです。

撮影=小林久井
飯田屋店内の様子

「1年間に1個」でも売れるなら仕入れる

それゆえ僕たちには、売れな筋の中から魅力ある逸品を見つけ出す力が問われています。それは、10万人中たった1人でも歓喜の声を上げるほどの魅力ある商品を見極める力です。

この10万人というのは、飯田屋の年間来店客数です。つまり、1年間にたった1個でも売れるなら、その商品を仕入れるのが品揃えの方針です。

飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)

初めは10万人に1人の熱狂から始まった商品でも、時間をかけてしっかり魅力を発信していけば、作り手の思いのこもった商品は必ず世に広まっていきます。大手企業のバイヤーが「なぜ今まで気づかなかったのか」と恥じ入るくらい有名になり、彼らの売場に並んでいく商品を今までにいくつも見てきました。

そんなときは、「最初に目をつけたのは僕なんだぜ」とおもしろくて仕方がありません。売れな筋を中心に取り扱い続けた結果、大手企業には仕入れてもらえない尖った特長を持った数々の道具と、その作り手たちが飯田屋に集まってくるようになりました。