ネット通販の隆盛で、実店舗は苦戦しているといわれる。だが東京・かっぱ橋の老舗料理道具専門店「飯田屋」は好調だ。飯田屋6代目の飯田結太さんは「ネット通販で不満や不便を感じる人は増えている。だからネット通販が増えるほど、専門店にも人がやってくる」という――。

※本稿は、飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん
撮影=小林久井
「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん

ネット通販隆盛の陰で膨らんでいく不満

「アマゾンへの対抗策は大丈夫?」

実店舗を営んでいると、よく聞かれる質問の一つです。

はっきり言いますが、まるで影響はありません。逆に、ネット通販のお客様が増えるほどに、飯田屋への来店客数は年々大幅に増えています。

嘘みたいな話でしょうが、本当です。なぜなら、ネット通販購入者の母数が増えた結果、不満、不便、不快、不都合といった潜在的な「不」を抱えたお客様が増えていくからです。

料理道具の場合、大きさや重さで失敗したというお客様の声をよく聞きます。たとえば、フライパンをネットで購入した人がいるとします。

もちろん、ネット通販のサイト上にはサイズや重さがしっかりと記載されています。サイズは24cm、重さは950g。価格も手頃だし、買ってみたとします。

しかし、商品が届いてみると、「こんなに小さかったのか!」とか「こんなに重かったのか!」と驚いた経験はありませんか。正しく商品仕様が書かれていても、それが自分に合った道具であるかどうかを判断するのは容易ではありません。

24cmは少食の人の1人前、26cmは2人前、28cmは3人前、30cmは4人前と、たった2cmサイズが変わるだけで、料理ができる量がこれほど変わってきてしまうのです。950gと書いてある重さが自分にとってどれほどの重さなのか、実際にフライパンを持ってみれば一目瞭然なことが、文字だけで理解するのは難しいのです。

そして、ネット通販では簡単に膨大な種類の選択肢にアクセスできてしまいます。一人で何も知識なく道具を選ぶには、ネット通販は便利なようでかなり難易度が高いのです。だから買った人が感想などを書き込むレビューが大切になっていくのですが、最近では偽レビューというのも大きな問題となっていて、どこまで信じられるかは疑問です。

もちろん、ネット通販に満足感をおぼえる人も多いでしょう。しかし、それと同時に思ったものが買えなかったという不満も同じくらい増えているのです。

ネット通販で不満を覚えた人は専門店に来る

人間は本能的に不満、失敗を避ける生き物です。

フライパンをネット通販で買って不満をおぼえた人は、次は絶対に失敗したくないと思います。そこで次は専門店で道具のプロに相談して買うという選択をします。こういう人は今後はもっと増えていくことでしょう。

ネット通販には、自宅にいながらに買物できる圧倒的な便利さがあります。一方、それに比べたら飯田屋には圧倒的な不便さがあります。それでも、わざわざ足を運んでやってきてくださるお客様はたいへんありがたい存在です。

ですから、買物そのものが一つのエンターテインメントとなるよう心掛けています。実店舗で勝負をするなら、毎日一つの「ショー」を興行するくらいの熱意で挑まなければ生き残りは難しいでしょう。