営業に「ノルマ」は必須なのか。東京・かっぱ橋の老舗料理道具専門店「飯田屋」の6代目・飯田結太さんは「うちにはノルマも目標も飛び込み営業もありません。社員には『売るな』と言っています。そのほうがお客様の満足度が高まり、売上も増えます」という──。

※本稿は、飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん
撮影=小林久井
「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん

「売上を気にするな」だけで数字の呪縛は解けない

心からお客様を大切にするには、まず数字の呪縛から逃れなければなりません。「売上を気にするな」と伝えるだけでは、人は数字の呪縛から自由になれないのです。

そこで思い切って、「ノルマや売上目標といった数字の管理を今後一切廃止する」と従業員に伝えました。ノルマによる売上達成ではなく、笑顔による売上向上を目指そうと決意しました。

逆説的ですが、従業員たちが目の前のお客様の笑顔だけを大切にして販売できたなら、数字の管理などなくても売上は上がっていきます。従業員が店の都合をまったく気にせず、来てくれたお客様の満足だけを考えてくれる店があったら、僕なら必ずその店のファンになると思ったのです。

ノルマをつくると「お客様」が見えなくなる

ノルマは靄のかかったサングラスのようなものかもしれません。初めは見えにくさを感じても、いずれは慣れていきます。そして、お客様をノルマを通して判断するようになってしまいます。

それが怖いのです。

とはいえ、売上がなければ経営は成り立ちません。売上が伸び悩んだときは、「ノルマをつくったほうがいいのではないか?」と不安に思う自分もいました。それでも、やせ我慢をしてでも従業員たちを信じる道を選びました。

従業員たちがノルマによる販売ではなく、お客様が抱くニーズの本質を探して販売してくれれば、お客様の満足度は高まります。そうすれば、飯田屋を信頼してくださるお客様が増えるはずです。

そうした評判が評判を呼び、お客様が飯田屋を信じて何度もご来店いただけて、愛してくださる商いを目指します。どんな繁盛店も、一人ひとりのお客様が何度も来てくれる積み重ねなしに生まれるはずはありませんから。

だから僕は、従業員たちに自信を持って「売るな」と言っています。目の前のお客様の話をしっかり聞き、何がその人にとって必要なものかを理解し、道具を「つなぎあわせてほしい」と伝えています。