子牛価格の相場は10年間で2倍に

石垣島と宮古島はブランド和牛の素牛となる全国有数の子牛の繁殖地。潮風を浴びたミネラルの多い新鮮な牧草が一年中採れる、畜産には最適な土地柄だ。沖縄県全体では年間約2万4000頭の子牛が飼育され、鹿児島、宮崎、北海道に次いで全国4位の取引量がある。

「種付けした牛が、海を渡って有名ブランドの高級和牛になる。そりゃもう、最高ですよ」

そう話す根間さんは、人工授精師になって20年。肉質の優秀な系統種を掛け合わせるなどして、素牛の質を高めてきた。現在は島で10人ほどしか活動していない人工授精師と畜産農家との連携を密に、宮古島の「繁殖地」としての評価を打ち立てた自負がある。

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人工授精師・削蹄師の根間祐樹さん(写真右)と繁殖農家の塩川洋美さん。高齢農家の子牛の搬入や出荷を手伝うヘルパー組合員としてセリをサポートしている=4月19日、宮古家畜市場

子牛価格の相場は10年前に比べてほぼ倍に高騰している。口蹄疫の流行に、東北や九州地方の震災が追い討ちをかけ離農する農家が増加、子牛が供給不足に陥ったことがきっかけだった。近年はアジアなど海外での和牛人気も加わり、高止まりが続いているという。

「相場が現在の半値以下のときから、なんとか踏ん張って頭数を維持し、需要に応えようと増頭に動いた農家があった。だからこそ、今の国内の和牛市場が守られてきたと思っている」と根間さんはいう。

新型コロナの影響で飲食店の牛肉需要が落ち込んだ。宮古でも2020年1月以降、子牛の取引実績が前年を下回る状態が続いたが、12月のセリから再びコロナ前の水準に戻りつつある。取材したこの日の1頭あたりの最高買付価格は96万円。平均価格は約69万円で、前月を3万2000円上回った。

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セリの会場。発育状態や系統などから購買価格が決まる=宮古家畜市場

「肉を生産する」だけではもう成り立たない

子牛価格の持ち直しは繁殖農家にとっては朗報だが、肉牛生産を担う肥育農家にとっては、仕入れコストの増加につながり経営を圧迫する。

沖縄県内では3月、JAおきなわが本島内の肥育事業から撤退する方針を突然明らかにし、繁殖農家に不安が広がっている。子牛価格の高騰や枝肉価格の低迷で、赤字経営が続いていることを理由に挙げる。

一方で、JAは、「石垣牛」「宮古牛」「伊江島牛」を有する3つの離島の肥育センターは維持する方針だという。つまり、“単なる”肉牛生産では経営は成り立たない。ブランド牛にふさわしい肉質を極め、認知度を高め、常に出口戦略を磨いていく。これしか、島の畜産業を存続させる道はありえないことを、農協自らが示した。