地方から都心への人口流出が続く原因はどこにあるのか。まちづくりに詳しい花房尚作さんは「都心は職業の選択肢が多いという理由のほかに、田舎特有の文化的な序列意識の根深さがある。コーヒーショップの店舗の有無が話題になるのもそんな序列意識の表れだ」という――。

※本稿は、花房尚作『田舎はいやらしい』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

農家のトラクター
写真=iStock.com/Alexander Pyatenko
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過疎地域には若者が就きたい職業がない

過疎地域から人口が流出する要因として、職業威信の序列意識について述べる。この職業威信の序列意識は、過疎地域から都心に若者が流れる要因として、東京都立大学教授の山下祐介(2015年)をはじめ、多くの社会学者が指摘している。

一般的に、作家や医師、弁護士などの専門職は職業威信が高くなる傾向があり、コンビニ店員や工場労働者などの一般職は職業威信が低くなる。たとえば、本書で他者の文章を引用する場合、その他者に権威があるのか、ないのかが問われる。コンビニに勤めているAさんの文章を引用しても説得力がないのである。そのAさんが人生を費やして専門家を超える知識を持っていたとしても、である。

一般的に「過疎地域には仕事がない」と言われるが、過疎地域にも農業や畜産などの第一次産業がある。さらには建設業や工場労働といった第二次産業もある。ただし、それらは若者が就きたいと考える専門職とは違う。ドイツの社会学者であるゲオルク・ジンメル(1903年)は、都市における分業の発達と専門化について次のように指摘している。

都市は、分業の発達によって、パリの14番目役という有償の職業のように、極端な現象を生みだします。14番目役というのは、住居に人に分かるように看板がかかっていて、晩餐の時刻に正装をして準備しており、晩餐会の人数が13人になりそうなときに、すぐに呼び出しに応じられるようにしている人のことです。
都市は、拡大するにつれて、ますます分業のための決定的な条件を準備します。都市は、規模の大きさのゆえに、著しく多様なサービスを吸収できるような社会圏を準備します。同時に、個人が集中し、顧客をめぐる競争が激しいので、個人は、簡単に他者によって置き換えることができないような機能の専門化を余儀なくされます(『大都市と精神生活』)