石垣ブランド「KINJO BEEF」の挑戦

そんな難易度の高いブランド和牛の肥育事業に、独立独歩の精神で果敢に挑戦している畜産農家がいる。石垣島で「ゆいまーる牧場」、本島・石垣市内で焼肉店「焼肉金城」を経営する金城利憲さん(66)と4姉妹の長女、美由紀さん(38)ら一家だ。

子牛の繁殖・肥育の生産から加工、焼肉店まで一気通貫で手がける数少ない「一貫型」畜産農家。2000年に開催された沖縄サミットで、首脳晩餐会のメインディッシュとして初めて世に「石垣牛」の存在を知らしめたのは利憲さんだった。

石垣島の空港から車で7分の場所にある牧場で、肉用牛約450頭を肥育している。扱うのはメス牛ばかり。メスはオスに比べて太りにくく、1頭からとれる枝肉の量で比較すると100kg近く差がつくという。

「スーパーに並ぶパックのお肉の90%以上がオスや去勢された牛で、メス牛のお肉はそもそも流通量が少ない」(美由紀さん)

ゆいまーる牧場の金城美由紀さん。金城家の4姉妹の長女。石垣市内の高校の畜産科を出て、東京の大学で畜産を学び、23歳から牧場を取り仕切る=2月15日、石垣市・ゆいまーる牧場
筆者撮影
ゆいまーる牧場の金城美由紀さん。金城家の4姉妹の長女。石垣市内の高校の畜産科を出て、東京の大学で畜産を学び、23歳から牧場を取り仕切る=2月15日、石垣市・ゆいまーる牧場

牛肉のイメージを一変させる甘い香り

一般の肉牛が27~35カ月程度で屠畜するのに対し、ゆいまーる牧場の牛の肥育期間はほとんどが40カ月を超える。島で採れる牧草やサトウキビの葉がらに、吟醸米の酒粕、ビール粕、大豆粕、タピオカ粕などを混ぜて発酵させた自家配合飼料を使う。

「こんな育て方をしている牧場は、全国でも珍しいと思います。私は野菜でもお肉でも、何を食べてどんな環境で育っているのか分からないものは口にしたくないんです。食べた物で体が作られるのは、人間も牛も同じですから」

きめの細かなサシが入り、脂分は手のひらの体温でクリーム状に溶け出す。美由紀さんいわく、「脂質はオリーブオイルと同じ不飽和脂肪酸のオレイン酸」「風味は牛乳やチーズのようなラクトン系の香りなんだけど、鼻から抜ける甘い香りという表現の方が分かりやすいかな」

そこまで聞くと、牛肉のイメージが一変した。

「農協や卸を通さない」経営を選ぶ理由

1年以内で出荷できる子牛の「繁殖」と、2~4年かけて肉用牛に育て上げる「肥育」とでは、「キリンと虎ほど、育て方が違う。肥育の方がずっと難しくて、技術が必要」と美由紀さんはいう。

「焼肉金城」北谷本店にある精肉コーナー。巣ごもり需要で地元客の利用が増えているという=3月2日、沖縄県北谷町
筆者撮影
「焼肉金城」北谷本店にある精肉コーナー。巣ごもり需要で地元客の利用が増えているという=3月2日、沖縄県北谷町

肉質に直結する長期熟成にこだわるほど飼料代はかさみ、肉量の少ないメスに特化するほど、単価を見極めなければ農家の身入りは少なくなる。一貫経営にこだわるのは、農協や卸市場を通さず、その分、子牛の自家繁殖や自家配合飼料によって生産コストを抑えるため。ランクの高い和牛でも買いやすい価格になるよう仕組みづくりを模索した結果だという。