その一方で、同社の牧場経営は実質、赤字状態が続いている。コロナ前の2019年は年商約2億4000万円だったが、20年は約1億円減。金融機関からの借入金の返済を遅らせるなどコロナ対応策でつないだが、自転車操業を強いられている。

課題は地元民への情報発信力

「経費の半分を占める輸送コストをいかに抑えられるか、もっと工夫が必要。でも逆に言えば、餌になる牧草には困らないのだから、その他の飼料や出荷にかかる輸送コストの課題さえクリアできれば、農家は十分な利益を確保できるようになる」

これが、利憲さんが創業以来、突破口を探り続ける経営課題の根幹だ。「必ず解決できる」と絶えず秘策を練る。

そして、もう一つの課題は情報発信力。生産現場のこだわりと自信を知れば、買って食べて、応援したくなるのが消費者心理。だが、地元県民ですら、沖縄県内唯一の百貨店、大手スーパーでも、今のところ「KINJO BEEF」は手に入らない。美崎牛や伊江牛など沖縄県内で生産に奮闘している他地域のブランド和牛も同様だ。

生産のプロであっても、販売やプロモーションは、得意な誰かの応援がほしい。そんな生産者は少なくないだろう。6次産業化のもう一つの障壁でもある。

宮古ブランドは「雪塩」とタッグ

宮古島のブランド牛も負けてはいられない。「雪塩」ブランドの製塩販売事業を手がけるパラダイスプラン(宮古島市)の西里長治社長が得意とするのが、宮古島の食材をテーマにしたブランディング事業だ。

同社は3月、「宮古牛」を提供する飲食店事業に乗り出した。英会話教室「NOVAホールディングス」のグループ会社とタッグを組んで、鉄板焼きレストラン「ユキシオステーキ」を宮古島市平良にオープンした。

宮古牛やアグー豚など宮古島産の食材を鉄板焼きで楽しめるユキシオステーキ=4月19日、宮古島市平良
筆者撮影
宮古牛やアグー豚など宮古島産の食材を鉄板焼きで楽しめるユキシオステーキ=4月19日、宮古島市平良

パラダイスプランは「ユキシオ」を冠したブランド管理と食材供給に徹し、店舗運営やスタッフの採用などは全てNOVA側に任せ、役割分担を明確にした。

「この時期に未経験の飲食事業でリスクは負えないが、宮古に思いを寄せるいいパートナーがいたからこそ、挑戦できた。コロナ禍に関係なく、宮古島の地域商社として地元の素材にどんどん関わっていく。メロンも宮古牛も、わたしにとってはまったく同じライン上にある」(西里社長)

奇しくも今月、宮古島の繁殖農家でつくる「宮古和牛肥育研究会」が立ち上がったという。現在は生産頭数が少なく「幻」とも言われる宮古牛だが、西里社長の手による情報発信とともに、宮古島産の和牛ブランドを育てる機運が、高まりつつある。