効果がないだけでなく人体に有害な可能性も

一方、もし空間除菌の感染予防効果を信じていなければ、わざわざ金をかけてランダム化比較試験なんかやりません。効果がないことがヤブヘビでばれてしまうリスクすらあります。

これまで通り、「効果がありそう」という誤解を維持させ続けたまま「雑貨」で売り続けます。小規模な先行研究から10年以上経っていますが、私の知る限りでは、空間除菌の感染予防効果を検証するランダム化比較試験は発表されていませんし、計画すらされていません。

それでも感染を予防する可能性を否定できない以上、空間除菌をやることはやらないよりはましだと思う読者もいらっしゃるかもしれません。ただ、それは空間除菌に害がなければの話です。ウイルスに影響を及ぼすのに人体にはまったくの安全という化学物質は存在しません。

短時間で空気中のウイルスを不活化できる濃度の化学物質は、同時に人に有害である可能性があります。安全性を優先して濃度を薄くすると今度は効果が期待できません。販売されている商品がそれぞれの使用条件下で、ウイルスを不活化できるが人体に害のない適正な濃度を維持できるとは限りません。そもそもそんな適正な濃度があるのかどうかも疑問です。

咳や化学熱傷などの健康被害が続出している

空間除菌で使われている化学物質が、水道水の消毒や食物添加物として使用されているから安全であるかのような主張もありますが、論点がすり替わっています。

空間に散布・拡散され、気道の粘膜に触れても安全であるかどうかが論点です。作用場所が変われば人体に対する影響も変わります。たとえばアルコールによる手指消毒はおおむね安全ですが、それは皮膚が角質に守られているからで、空中に散布し吸い込めば有害です。

個人差も心配です。アルコールによる手指消毒はおおむね安全だと書きましたが、人によっては皮膚にトラブルが起きます。アルコール消毒なら個人が気をつけていれば避けられますが、空間除菌はそうはいきません。

写真=iStock.com/Vasyl Dolmatov
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99人には大丈夫である濃度でも残りの1人には有害かもしれません。臨床試験を経て承認された薬剤なら、有害事象の情報は集められますし、市販後も調査は続けられ、副作用の起きる頻度はだいたいわかります。しかし、「雑貨」にはそのような調査義務はありません。

メーカーが把握しているかどうかはともかくとして、空間除菌製剤による健康被害は起きています。咳、呼吸器、悪心のほか、重症度の高いものとして首からぶら下げるタイプの空間除菌製剤によって化学熱傷が起きたという事例が複数あります(※4)

(※4)次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」をお持ちの方は直ちに使用を中止してください。(消費者庁)