メディア事業は中国IT企業の生命線に

さまざまな憶測が飛び交うなか、意外な論点が浮上してきた。それはアリババが保有するメディア、ソーシャルメディアの売却を求める動きだ。

アリババはEC(電子商取引)を祖業とする企業だが、現在ではクラウドコンピューティング、物流ソリューション、出前代行、口コミサイト、ゲーム、エンターテインメントなど幅広い事業を傘下に擁する。これはアリババだけの特徴ではない。米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が特定の分野に経営資源を集中しつつも事業範囲を全世界に拡大しているのに対し、中国の大手IT企業は地域的には中国本土に集中しつつも、カバーする分野は複数領域に広げている。

中国IT業界には「トラフィックは王」という言葉がある。新サービスを育てるにはユーザーを集める必要がある。どんなに優れた機能を開発しても、集客で負ければそれで終わりだ。集客のための導線をいかに確保するか、メディアやソーシャルメディアはIT企業にとってきわめて重要なポジションにある。

だが、アリババは長らくこの分野で劣勢に立たされてきた。

アリババのライバル企業であるテンセントはQQ、ウィーチャットというソーシャルメディア、メッセージアプリを持つほか、騰訊網というポータルサイトを持つ。一方のアリババは2005年にヤフー中国を買収したものの、ユーザー数を伸ばせずサービスを停止した。また、同社の持つ決済アプリ「アリペイ」のメッセージ機能を強化し、ソーシャルメディア化する構想もあったが、こちらも失敗している。

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自社では有力なメディア、ソーシャルメディアを生み出せなかったアリババは、戦略出資を通じて巻き返しを図る。2013年には中国SNS大手「ウェイボー」に出資。2015年には大手動画配信サイトの優酷土豆を買収。同年、中国大手メディアコングロマリットの上海メディアグループと戦略提携、さらに香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストを買収と影響力を拡大してきた。

ネットメディアに脅かされる中国共産党の権力

なぜ、今になってアリババのメディア事業が問題視されたのか。

中国の独占禁止法に詳しい、神戸大学の川島富士雄教授は2020年4月の不倫事件が引き金になったと指摘する。

アリババの蒋凡(ジャン・ファン)副総裁と有名女性インフルエンサーの不倫スキャンダルが発覚し、中国のネットでは爆発的な話題となった。ところが、アリババが出資するSNS「ウェイボー」は、この話題がホットトレンドランキングに掲載されないように手配した。

この動きに怒りをあらわにしたのが中国共産党だ。中国共産党は1949年の建国以来、メディアを厳重な支配下に置いてきた。すべての新聞、雑誌はなんらかの党機関の直接的管轄に置かれており、自由に出版することはできない。