独占禁止法とは無関係のメディア事業が標的に
日本など先進国では、特定の企業が多くのマスメディアを支配し、世論を操作することがないよう、「マスメディア集中排除原則」を定めている。しかし、中国では従来、中国共産党がメディアを支配し、その対抗者が出ることは想定されていなかった。民間企業によるニュース編集介入禁止や外資規制は存在するが、民間企業によるメディア支配を十分に抑止する法制度は整備されていない。
では、アリババなどプラットフォーム企業によるメディアへの影響力をいかにして弱めるのか。川島教授は独占禁止法違反とセットにする形が考えられると予想される。
アリババに対する独占禁止法違反について詳細な問題点は明らかにされていないが、「二選一」(二者択一)などが問題視されているもようだ。これはアリババの“独身の日”セール等に参加する企業に対し、他のEC企業のセールには参加しないよう強制することを意味する。この問題について、アリババが改善計画を策定し、当局が了承するという形で決着する可能性もある。
「この改善計画は“自主的”に策定することがポイントだ。企業が自発的に作ったという立て付けのため、独占禁止法違反で槍玉に挙げられた問題以外の内容を含むこともありうる」(川島教授)。
実例もある。2011年に通信キャリアのチャイナテレコム、チャイナユニコムは独占禁止法違反に対する改善計画を提出した。もともとは競争事業者に対する接続料のつり上げが問題となったにもかかわらず、改善計画には一般ユーザーに対する通信料引き下げというまったく無関係の条件が盛り込まれていた。
独占禁止法違反にかこつけて、通信料引き下げという産業政策を実施したという次第だ。同様に、「二選一」とはまったく関係のない、メディア事業の売却が、アリババの“自主的”な改善計画の一項目となることは十分に考えられる。
8500億円超の制裁金も、中国共産党の打つ次の一手
メディア事業の売却、特にユーザーの集客導線となるソーシャルメディアや動画配信サイトを手放すことになれば、アリババにとっては大きな痛手だ。だが、それだけでは終わらない可能性が高いと川島教授は指摘する。加えて、巨額の制裁金を科される可能性が高い。
中国の独占禁止法第47条では、「違法所得の没収、および年間売上の1~10%の行政制裁金」を課すことが定められている。米半導体大手クアルコムの独占禁止法違反が認定された2015年のケースでは、年間売上の8%にあたる60億8800万元(約1010億円)の行政制裁金が科された。
アリババの2020年会計年度(2019年4月~2020年3月)の売上高は5097億1100万元(約8兆5100億円)。最大でその10%、約8500億円もの制裁金が科されることになる。
アリババにとっては厳しい逆風が続く。その事業を国が接収し、国有企業化するのではないかとの憶測もあるが、川島教授は違う見方を示す。
「昨秋以来、プラットフォーム企業に対する規制強化が打ち出されている一方で、民間企業によるイノベーションを守る方針も示されている。中国を代表する民間企業であるアリババを国有化するようなことがあれば、その影響はあまりにも大きい。規制は強化されるが、致命傷を与えるようなことはないだろう」